好きで結婚したはずなのに、気付けば相手が家にいるのが疎ましい。日常のささいなことで、いらいらしてしまう。子どもが巣立った後の二人きりの生活が、不安で仕方ない。こんな思いを抱く夫婦は、少なくないのではないでしょうか。夫婦問題研究家の岡野あつこさんに、熟年夫婦の過ごし方や関係を改善させる秘訣(ひけつ)を聞きました。(聞き手・斉藤正志)
■モラハラの相談が増加
-熟年離婚する夫婦の割合が高くなっています。
「離婚する夫婦のうち、同居20年以上が23%(2022年)に上ります。離婚の4組に1組は熟年離婚ということになります」
-昔と今で離婚原因の傾向は変わっていますか。
「かつては夫によるDV(家庭内暴力)、浮気、借金が原因になることが多かったです。今はDVは犯罪という意識が高まり、表だって浮気する人もあまりいません。現在はモラルハラスメント(モラハラ)の相談が多くなりました」
■もう我慢したくない
-熟年離婚はどんなことが原因になるのでしょうか。
「日常的に相手への感謝やねぎらい、ほめる言葉がない。まともな会話がなく、『ありがとう』も言われない。こうした状況で子どもが巣立って二人だけになると、『果たしてこの人と一緒に老後を過ごせるのか』『この先もずっとこのまま生活しないといけないのか』と不安になってしまいます。それが嫌で、『もう我慢したくない』と離婚を考える人が多いです」
-長く一緒に暮らしていると、相手への考え方も変わるんですか。
「結婚時に『優しい人』と思っていたのが、離婚時には『優柔不断な人』に変わります。『男らしい人』と思っていたのが、『横暴なワンマン』になってしまいます。結婚生活を続けていると、いい面だけではなく、違う面があることに気付いていしまいます」
■俺の金だから
-妻側から離婚を切り出すケースが多いのでしょうか。
「かつては妻からが多かったのですが、最近は夫からのケースも増えています。夫からすると、自分だけがこんなに働いてきたのに全然大切にしてくれない、妻は自分のことをお金を運んでくるATMとしか見ていない、と思ってしまうケースがあります」
「まじめな人ほど、ささいなことが許せなくなる傾向があります。一心に働いてきた人の目に、家にいる妻が何もせず遊んでいるように映り、もう夫婦関係をやめたいとなってしまうことがあります」
-お金のことも不仲の要因になりますか。
「『俺の金だから』と散財する夫がいる一方、夫に少しの小遣いしか与えない妻もいます。お金のことを自分一人で決めるものだと思って、感謝がなくなれば、相手は不満をためてしまいます」
■「大切にされていない」
-普段から感謝することが大事なんですね。
「離婚に際しては、『大切にされていない』というのがキーワードになります。結婚する時は『この人なら大切にしてくれそう』と思っていたのに、そうでなければ一緒にいるのが嫌になってしまいます」
「長年一緒に暮らしてきたのに、自分のことを評価してもらえない、存在を感謝してもらえないと思ってしまうんです」
-感謝を言葉にして口にしない人も多いです。
「『言わないけれど、分かるだろう』というのは駄目です。夫婦といえども違う人間です。言ってもらわないと分からないことは多いんです」
「思い切って『いつもありがとう』と言ってみれば、関係は変わります。知人との会話の中で、『うちの妻はよくやってくれている』と言うのを聞かせるのもいいと思います」
■謝ること、許すこと
-普段から感謝の言葉を口にしていない人は、なかなか言いにくいかもしれません。
「熟年夫婦になると、人として当たり前のことができなくなりがちです。『おはよう』などのあいさつをきちんとするだけでも、関係は良くなります。感謝、ほめる、ねぎらうというのは、夫婦だけでなく人間として大切なことです。そう思えばできるはずです」
-当たり前のことが大事なんですね。
「熟年夫婦がうまく過ごすには、間違ったことをしたら謝ること、謝ってくれたら許すことも大切です」
「昔、いつも手をつないでいる仲のいい老夫婦がいたので、『何でそんなに仲良しなんですか』と聞いたんです。すると夫が『悪いことをしたら謝ることだよ』と言い、妻が『許すことですよ』と言ったんです。すごいことだなと感心しました。なかなか謝れないし、なかなか許せないものですから」
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<熟年夫婦の過ごし方②>では、ささいなことが離婚のきっかけになる具体例、離婚に至るまでに考えるべきことなどについて、岡野さんに聞いた内容を紹介します。
便座を下げないが離婚原因に 言ってはいけないNGワード <熟年夫婦の過ごし方>②
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【岡野あつこ(おかの・あつこ)】1954年、埼玉県出身。立命館大産業社会学部卒。夫婦問題研究家、公認心理師、NPO法人「日本家族問題相談連盟」理事長。離婚カウンセラーとして、34年間で約4万件の相談を受ける。カウンセリング事務所「岡野あつこの離婚相談救急隊」を運営。「なぜ『妻の一言』はカチンとくるのか?」(講談社+α新書)、「夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法」(サンマーク出版)など著書多数。