■実地で保全・継承考える
「20~30年後に自分の母語で若い世代と話すことができない状況を想像してみてください」
これは、私が担当する授業の冒頭でいつも学生に語りかけるメッセージです。
現在、世界では約6千~7千の言語が話されていますが、今世紀の終わりには約半数の言語が消滅してしまう(=話者がいなくなる)と試算されています。
平均すると、2週間に一つの言語が消えていることになり、消滅のスピードとスケールは未曽有のものです。
言語が消滅する背景には、政治的、経済的、文化社会的要因などさまざまなものがあり、これらが複合的に絡み合い、自身や両親、祖父母の母語を話すことを「選択しない、できない」状況を生み出しています。その結果、世界の至る所で、冒頭のメッセージのような状況が社会や家庭で生じています。
消えゆく言語を保全する必要性についてはさまざまな議論がありますが、言語は個人のアイデンティティーの根幹をなすということは多くの方が共感する認識でしょう。
また、言語は自然や環境に関する知識や創薬につながるような植物に関する知識などを伝える媒体としても機能していることが明らかになっています。
私は言語学、特に統語理論に関する研究を行っています。この分野は語を組み合わせ、句や文などの大きな単位を作る際に、どのようなアルゴリズム(計算手法)が働いているのかを解明しようとしています。
理論研究を通じ、言語全てに存在するとされる普遍的なアルゴリズムを明らかにすることにより、人間とは何かを解明することを目指しています。
しかし、先に述べたように、現在世界においてすさまじいスピードで言語が消滅しています。私は消滅危機言語の研究にも注力し、理論研究だけでなく、アーカイブ構築や復興・継承活動にも従事しています。
その一環として、米国留学以来研究を続けている、グアテマラ共和国のカクチケル語(マヤ語族)に加え、奄美群島の一つである喜界島で話されている奄美語の研究も進めています。喜界島では、研究室の学生たちとともに毎年フィールド調査を行っています。
研究室の学生たちは座学とフィールド調査を通して、言語の消滅が決して対岸の火事ではないことを実感し、保全・継承のために何ができるかについて政策的思考を用いながら真剣に考えています。
最近では、他研究室と協働することにより、総合政策学部らしいプロジェクトにも取り組んでいます。工学系やアート系の分野の教員、学生と喜界島でフィールド調査を行い、奄美語のデジタルアーカイブの構築を目指しています。昨年からは米国の研究者も加わり、国際的な学術交流を図っています。
言語のような無形文化遺産はひとたび消えてしまうと、復興させることは非常に困難です。人類の知を守るためにも、私の研究室では今後も理論研究のみならず、社会実装を見据えた学際的研究を学生たちと行っていきたいと考えています。























