50年間、胞子体が再発見されない幻のシダ、イトシシランの独立配偶体のマット(提供)
50年間、胞子体が再発見されない幻のシダ、イトシシランの独立配偶体のマット(提供)

 近年、私が関わってきたシダ植物の研究で、大きな前進がありました。「DNAバーコーディング」という技術を使い、これまで謎の多かったシダの「配偶体(はいぐうたい)(前葉体とも呼ばれる)」について調べられるようになったのです。

 シダ植物は、普段私たちがシダとして目にする、大きな葉をつけた「胞子体(ほうしたい)」と、1センチにも満たずコケにしか見えない「配偶体」という二つの姿を行き来しながら一生を送ります。

 ところが、この配偶体はとても形が単純で、どれも似ているため、見た目だけではどの種類かを判別できませんでした。そのため、野外で配偶体そのものを調べる研究は、長い間ほとんど進んでいませんでした。

 ところが、DNAの情報を使って種(しゅ)を特定できる「DNAバーコーディング」が広く使われるようになり、状況は大きく変わりました。

 日本ではほとんどのシダ植物(胞子体)のDNA配列(rbcLという光合成に関わる遺伝子の塩基配列情報)がすでに登録されているため、野外で採集した配偶体のDNAを調べると、どの種なのかを正確に知ることができます。

 海外のデータも増えてきており、日本には分布していないはずのシダ植物までも、DNAで種を見分けられるようになりました。

 私たちはその中でも、「独立配偶体」と呼ばれるタイプに注目しました。これは、配偶体だけで無性生殖を繰り返し、長い間(時に1万年以上)生き続けるものです。

 シダの一つ一つの配偶体はとても小さいのですが、無性芽で増え続けると直径数センチ以上の「配偶体マット」と呼ばれる群落になり、岩の上などに広がります。小さな配偶体を個別に探すのは大変ですが、このマットに注目することで、効率よく配偶体を見つけて採集できるようになりました。

 私が約20年間、教授をしていた東京都立大学で大学院生だった酒井絵理佳さんと米岡克啓さんの2人が、合わせて9年間、日本各地を調査した結果、特に小笠原諸島や八重山諸島などの亜熱帯地域で、多くの配偶体マットを見つけました。

 その中には、南太平洋や東南アジアでしか知られていなかったシダの種も数多く含まれていました。現在では、日本に少なくとも55種以上もの独立配偶体が存在することが分かっています。温帯域の兵庫県内でも、シダの独立配偶体が見つかっています。

 つまり、コケのような姿のまま一生を終える「シダ植物」が、日本には思った以上にたくさん隠れていたのです。DNAバーコーディングという新しい技術のおかげで、目に見えにくいシダ植物の世界が次々と明らかになり、日本の自然の奥深さが改めて浮かび上がってきています。