女性と男性の身長の分布を表すグラフ
女性と男性の身長の分布を表すグラフ

 オスとメスにはどんな違いがあるのだろうか? なぜ性が存在するのだろうか?といった具合に、性というのは生物学において最も研究されているトピックの一つです。私の専門分野は動物行動学ですが、「それって性差ある?」というのは定番の議論です。

 私は生物学者として、生物学的性や性差の存在、研究の重要性は肯定しますが、日常会話でこの話題がでると、たまに居心地の悪い気持ちになることがあります。

 なぜなら、生物学的な性差の「集団としての傾向」が、「個人の性質」に安易に結びつけられることがあるからです。これについて少し解説してみます。ちなみに、日常で使われる性別という言葉は、生物学的性ではなくジェンダーを指すことが多いのですが、今回は生物学の性差に話題を絞ります。興味のある方はぜひ調べてみてください。

 さて本題です。性差の有無や度合いというのは生物学では頻繁に調べられており、人間でも身体的な特徴や行動についてさまざまな性差が報告されています。生物学の知見を眺める上で、私が注意してほしいと思うのは、性差がある特徴から個人を見分けることも、性別から個人の特徴を決めることもできない、ということです。

 人間の身長を例に考えてみましょう。たくさんの男女を集めて身長を測れば、平均値は男性のほうが高くなりますね。しかし当たり前のことですが、世の中には男性より大きい女性も、女性より小さい男性もいます。生物学的性は、必ずしも個人の特徴を説明しません。私は女性ですが、女性は私ではないのです。

 また、人間には行動や認知能力の性差もありますが、基本的に身長の性差よりもずっと小さいことが多いです。ゆえに、特に対面でコミュニケーションをとる際には、性差のみを根拠に能力を推定したり相手への接し方を変えたりするのは、当たる可能性が少し高い(こともある)ギャンブルをやるようなもので、あまり効率が良いとは言えません。その人を正確に知りたいのなら、本人に直接聞く方が合理的でしょう。

 私がこの話題を書こうと思ったのは、私が女性研究者で「女性だから」「女性なのに」としばしば言われることと、動物のコミュニケーション行動の研究をする中で「伝え合うとは何か」について考えることがあるからだと思います。

 あなたに、もしこれから仲良くなりたい人がいるなら、性別や属性ではなくその人自身と関わることを意識してみると、より良いコミュニケーションがとれるかもしれません。