コシジタビラコ(越路田平子)。4個に分かれた果実の周囲に環状隆起がある
コシジタビラコ(越路田平子)。4個に分かれた果実の周囲に環状隆起がある

 本州から九州の川沿いの湿った地域に生える軟弱な植物にミズタビラコがあります。里山の道端や田畑でよく見られるキュウリグサに似ていますが、野菜のキュウリのような青臭いにおいはしません。

 ミズタビラコも春先の4月から5月にかけてキュウリグサのような淡い水色の小さな花を咲かせます。この小さな植物に姿はそっくりですが、果実の形が少し違うコシジタビラコという植物があります。

 果実は1ミリぐらいの四角すい形をしており、4個が集まって5枚のガク片に包まれています。ミズタビラコの果実表面は平滑で果実辺縁に隆起がありませんが、変種のコシジタビラコは果実の周囲を囲むように環状隆起があります。

 コシジタビラコの名前は「越路田平子」のことで、越路は新潟県周辺の地名に由来し、田平子は田んぼに生える小さな植物という意味です。この植物は「新日本植物誌」の著者として有名な大井次三郎博士が1953年に植物学雑誌上で新種の記載発表をしています。

 新種を記載発表した証拠標本のうち、正基準標本が京都大に、重複基準標本が国立科学博物館に収蔵されています。この証拠標本の採集地が「越後の鍋山」と記述されています。おそらく現在の長野県上水内郡信濃町穂波鍋山と考えられます。

 各地の標本が集まり、研究が進むとコシジタビラコは、ミズタビラコの変種として扱われ、分布も日本海側の新潟県から長野県、福井県、京都府(亀岡市)、大阪府北部、岡山県(西粟倉村)などで標本が採集されていましたが、兵庫県では未記録でした。

 2025年5月に、本州で最も低い中央分水界(兵庫県丹波市氷上町石生、標高95メートル)周辺で植物調査を行った折に、田んぼの小さな用水路で高さ50センチにも達する大きなミズタビラコを見つけました。気になってルーペで果実表面の環状隆起の有無を確認すると、明瞭な隆起があり、コシジタビラコであることが確認できました。

 このような小さな雑草にも地域的な形態差があり、足元の植物にも目を向ける必要性を痛感しました。今後は果実表面の環状隆起の意義や、なぜこのような地域的な分化が生じたのかを解明していくことが課題となります。