生き物は、どのように新しい場所へ移動し、分布を広げていくのでしょうか。私は、水の中で暮らす生き物の「移動」に興味を持って研究しています。
魚のように自ら泳いで移動するものもいれば、幼生の時期に海流に乗って遠くまで運ばれるものもいます。一方で、限られた水辺からほとんど離れずに暮らす生き物もいます。こうした移動の違いは、生き物の分布を考える大切な手掛かりになります。
今回調べたのは、沖縄県の宮古島に暮らす「ミヤコサワガニ」です。
宮古島は大きな川がほとんどなく、地下から湧き出す湧水は、水生生物にとって大切な水辺です。ミヤコサワガニも、そんな湧水の周辺で暮らしています。
世界でも宮古島だけに生息する固有種で、現在知られている生息地はわずか3カ所。絶滅が心配されている、とても希少なカニです。この3カ所は、すべて約5キロの距離にあります。人間の感覚ではすぐ近くですが、カニたちは実際に行き来しているのでしょうか。
私たちの研究グループが、それぞれの場所に暮らすミヤコサワガニのDNAを調べたところ、三つの集団は遺伝的にはっきりと分かれていました。つまり、互いの行き来がほとんどないと考えられます。
わずか5キロでも、このカニにとっては大きな隔たりになっていたのです。ミヤコサワガニは一生を淡水で過ごし、海に出て遠くまで運ばれる時期もありません。さらに道路や農地ができたことで、カニが暮らせる水辺が分断されたことも、集団間の行き来を難しくしていると考えられます。
もう一つ、気になることも分かりました。3カ所のうち一つは、カニが暮らせる場所がわずか約80平方メートルしかありません。しかも、そこに暮らすカニは、遺伝的な多様性がほかの場所より少なくなっていました。
生息地が狭く、ほかの集団との行き来もほとんどない。この状態が続けば、この集団が生き残っていけるのか心配です。国の希少野生動植物種や沖縄県の天然記念物にも指定されていますが、カニそのものを守るだけでは十分ではありません。それぞれの集団がほとんど交流していないからこそ、暮らす場所を一つ一つ守っていくことが大切です。
生き物がどこにいるのかだけでなく、どこまで移動できるのかを知る。それは、生き物の分布の成り立ちを知るとともに、希少な生き物をどう守るかを考えることにもつながります。人間にとってはわずかな距離でも、小さなカニにとっては越えられない距離かもしれません。























