制度を通して初めて加害者の考えを知り、「真面目に生きるという思いを守ってほしい」と求める釜谷美佳さん=京都市右京区
制度を通して初めて加害者の考えを知り、「真面目に生きるという思いを守ってほしい」と求める釜谷美佳さん=京都市右京区

 犯罪被害者や遺族の心情を刑務官らを通じて加害者に伝える「心情等伝達制度」が全国の刑務所や少年院で始まり、まもなく1年になる。神戸市須磨区で2010年、暴行を受けて亡くなった釜谷圭祐さん=当時(19)=の両親も今春、利用した。加害者が罪とどう向き合っているのか分からないまま、事件から14年。制度を通じて初めて、心からの謝罪や後悔の気持ちに触れた。(篠原拓真)

 2010年10月29日。釜谷さんと友人の男性は、明石市や神戸市須磨区の路上で、男らから暴行を受け、釜谷さんが命を落とした。男は2人が自分の妹を連れ回していると思い込んで激高。倒れた釜谷さんの髪をつかんで立たせ、執拗(しつよう)に殴ったり蹴ったりした。

 男は裁判で懲役14年の実刑判決が言い渡された。民事訴訟では両親への賠償も認められ、裁判所は男らに賠償金の支払いを命じた。

 裁判で謝罪はなく、届いた手紙に言葉はあったが、「書かされたとしか思えなかった」と父智樹さん(59)は振り返る。賠償金は支払われず、効力が消滅する前に再提訴するしかなかった。そして、刑期終了による出所が近づいた。

 男は受刑中、何を考えてきたのか。反省をしているのか。出所後はどうするのか。知ることで憤りを抱き、精神的な苦痛を伴うかもしれない。それでも「知りたい」と母美佳さん(58)は思い、心情等伝達制度を利用した。

 法務省の施設に赴き、刑務官らに思いを伝えた。息子への暴行内容を知った時、痛みや恐怖を想像し、涙があふれたことを告げた。「息子や遺族の苦しみを本当に理解し、罪と向き合っているのか」と問いかけた。