世界保健機関(WHO)の日本唯一の直轄研究機関であるWHO神戸センター(神戸市中央区)が、2026年3月末をもって撤退することが18日、関係者への取材で分かった。阪神・淡路大震災後、兵庫県と神戸市、経済界が復興のシンボルとして誘致し、国際的な研究活動を続けてきた。運営費は全て地元が負担し、これまでの総額は約160億円に上るが、支出効果を疑問視する声も強まり、誘致から30年を節目に県と市が支援打ち切りを決めた。(霍見真一郎)
県や市によると、神戸商工会議所と神戸製鋼所を加えた4者で構成する「神戸グループ」は、24年10月に支援打ち切りを決定し連名でWHO事務局長宛てに書簡を送付した。同年12月に事務局長名義で承諾するという趣旨の返信があった。
同センターを巡っては、震災後の1995年8月に、神戸グループが運営資金を全額負担する形でWHOと覚書を交わし、原則10年ごとに契約を更新してきた。最初の約10年間は、県と市、経済界が毎年計678万ドルを負担。現在は県が毎年200万ドル(1ドル=150円換算で3億円)、市が100万ドル(同1億5千万円)を拠出し、経済界は約1200平方メートルのビルのフロアを無償供与している。
同センターには今月1日時点で常勤10人、非常勤6人の職員がおり、世界の災害医療研究の指針作りなど国際的な業績を重ねてきた。同センター職員が共同研究などで発表した学術論文は20~23年の4年間だけでも計110本に上り、16~23年には国際会議も計18回主催した。
また、学校向けの講演を月1・5回のペースで行い、次世代を担うグローバルリーダーの育成にも力を注いできた。神戸市は「国際交流拠点としての街の存在感向上に貢献した」と高く評価する。
しかし、例えば県が毎年支出する3億円は、目玉施策の一つである不妊治療支援事業(約2億2千万円)を大きく上回るように、巨額の運営費を国ではなく自治体が担う特殊事情から、近年は費用対効果を疑問視する声も議会などで上がっていた。神戸市も、物価高騰で固定費が上昇する中、国際機関に財政負担し続けるのは難しいと判断した。
今期の契約は26年3月までで、翌年の運営資金を12月に一括送金する決まりとなっているため、既に25年末までの費用は送金済み。26年の3カ月分は剰余金で賄う。撤退までの期間は、WHOと神戸グループで活動総括を検討する方針。
県は「研究成果は県民が実感できない面もあったかもしれないが、時間がたてば県民に還元されると確信している。誘致当初の目的はおおむね達成されたと考える」としている。
同センターは神戸新聞の取材に「兵庫県を含む神戸グループの団体が、WHO神戸センターに対する支援を打ち切ることを確定した場合、WHO事務局長はこの決定を全面的に尊重する」とコメントを出した。