尼崎JR脱線事故で3両目で重傷を負い、妻の幸子さんを亡くした蓬莱富雄さん。97歳の今も毎週ゴルフに通う=芦屋カンツリー倶楽部
尼崎JR脱線事故で3両目で重傷を負い、妻の幸子さんを亡くした蓬莱富雄さん。97歳の今も毎週ゴルフに通う=芦屋カンツリー倶楽部

 97歳とは思えない力強いスイング。自分の年齢より少ない打数でゴルフの1ラウンド(18ホール)を回る「エージシュート」は70歳を過ぎてから67回を数える。西宮市の税理士、蓬莱富雄さん(97)は20年前、107人が死亡した尼崎JR脱線事故に巻き込まれた。3両目で妻の幸子さん=当時(73)=は帰らぬ人となり、自身も肋骨を7本折る重傷を負った。今も体の痛みは残るが、周囲に支えられ、仕事にゴルフに、忙しい日々を送る。(広畑千春)

■あの朝、いつものように

 猛アプローチの末に結婚した幸子さんと、40年以上、一緒に大阪市内の事務所に通勤していた。

 あの朝もいつものように3両目に向き合って座った。と、速度が上がり、電車がふっと浮き上がる感じがして、意識を失った。

 気が付くと地面に倒れていた。血だらけの人が近くに横たわっていた。

 ぼうぜんとしつつ、「どうやって事務所に行こう」とよろめきながら線路まで戻ったとき、救急車のサイレンが聞こえ、近くの工場の人が駆け寄ってきた。自分も血だらけだった。