兵庫県公館(神戸市中央区)の書庫に「兵籍簿」が眠っている。兵籍簿とは、部隊の移動経過や階級昇進などの軍歴を記した「陸軍軍人の戸籍」といわれる行政資料だ。兵庫県に残るのは約2300冊、33万293人分とされ、残存数は全国で五指に入る。先の大戦から80年、一人一人の戦争体験を知る手掛かりとなる貴重な記録であり、歴史的価値も注目される。(田中真治)
書庫のスチール棚には、ひもでとじ込まれた書類がぎっしり並んでいた。
「将官」「佐官 全県下」「下士官 昭和17 東灘区」「死 兵 城崎郡」…。背表紙を追うと、これほどの数の人が軍隊に行ったのだと実感させられる。
兵籍簿は、部隊や軍学校に入った際に作成された。兵役に就いた期間や階級、国境を通過した戦地移動などを詳細に記すのは、恩給の算定や叙位叙勲の基礎となるためだ。
所属部隊が国外派遣中は「戦時名簿」に記録され、復員後に兵籍簿に転記された。退役や死亡後は、本籍地の陸軍行政機関「連隊区司令部」で、20年間の保存が定められていた。
戦後、都道府県に移管された兵籍簿が現在の形に整理されたのは、日本が主権を回復し、軍人恩給が復活した1953年のことだ。
当時の神戸市8区と姫路など13市、23郡(58町250村)に分けられ、下士官・兵は徴集年別に分類された。約30人がかりの作業は「県庁舎の階段の段差を利用し、半年ほどをかけた」と、県発行の「兵庫の援護50年」に回想が残る。