オリバーソースの最高級ウスターソースを使ったカクテル=神戸市中央区中山手通1、「バー アルフ」
オリバーソースの最高級ウスターソースを使ったカクテル=神戸市中央区中山手通1、「バー アルフ」

 大人が上品に洋酒をたしなむ「バー」と、粉もんなど庶民の味覚に欠かせない「ソース」。一見対照的だが、実はどちらの食文化も港町神戸で西洋の影響を受けつつ花開いた。そんな二つの融合を、創業100年を超える地元の老舗企業「オリバーソース」が試みている。目を付けたのは、味付けにソースを使うカクテル。9月に就任した道満龍彦社長(40)が仕掛け人だ。(那谷享平)

 神戸・三宮にある「バー アルフ」。カウンターの上に真っ赤なカクテルが差し出された。一すすりすると、まろやかな香りと酸味が口に広がる。トマトジュースとウオッカをシェークする「ブラッディメアリー」は、ウスターソースで味を調える。

 一般的には発祥の地である英国のソースが採用されるが、同店は地元の老舗オリバーソースの最高級品「神々による進化」を用いる。同社と神戸市などのバー16店がタイアップした期間限定企画の一環で、10月から来年2月28日まで、各店がこのソースを使ったお酒や料理を出す。

 「ソースに対して持つ哲学を全て注ぎ込んだ商品。それを神戸の歴史や文化と掛け合わせてみたかった」。道満社長もお酒好きでよくバーに通う。瓶や箱は「バーの壁に並ぶ酒瓶に交じっても違和感のないデザインを目指した」と明かす。

 「神々による-」は阪神・淡路大震災で廃業の危機にひんした同社が、震災30年の今年発売した新商品。1月17日に仕込み、3年間熟成させる。350グラムで税込み3240円。高級ソースという未開の市場へ挑むため、従来の熟成品を全面的にリニューアルした。

 「酸味が強くがつんと来る英国産を使うより、カクテルがまろやかで深みがある味わいになる」と店のオーナー兼バーテンダーの三池智美さん(51)。「私はこっちの方が神戸らしい味だと思います」

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 徳川幕府の鎖国政策が終わり、神戸港が開かれたのは1868年。神奈川や長崎と並び、明治政府の進める近代化を支える主要港となった。本格派の店が多い神戸のバー文化は、開港で外国人の往来が盛んになる中で根付いたと言われる。

 ウスターソースも神戸と縁が深い。現存する国内最古のソース会社とされるのは、神戸市東灘区の「阪神ソース」。同社が1885年に作った褐色の液体が日本のソースの基礎となった。さらに神戸で創業したオリバーソースが1948年に日本初の濃厚ソースを発売。これにより粉もんに濃厚ソースをかける関西の食文化が広まったという。

 この二つの文化を結びつけるアイデアが道満社長の頭に浮かんだのは昨年夏、市内のバーにいた時だった。当時は最高級品のリニューアルを模索中。「そのソースでブラッディメアリーを作ったら」という知人の一言が頭に残った。

 実現に向け、動き出したのは今年6月。バー情報掲載冊子を発行する「三陽物産」(大阪市)と企画を練り、参加店にオリバーソースが商品を提供することに。ナイトタイム経済の活性化を目指す神戸市の補助金も活用した。今後もバー文化を生かした連携の道を探るつもりという。

 「『神戸に来たら、神戸のソースを使ったカクテルを飲もう』と言われるくらいになったらすてきですよね」

 企画の参加店は次の通り。

【神戸市】
SHOT BAR SPROUT
Bar HONOR
Bar Le Bateau
Bar PRIVE
BAR alf
Bar Andante
BAR Brick
BAR SLOPPY JOE
SAVOY hommage
Bar SanCristobal
SHOTBAR Barrel
ANCHOR
BAR EmiNa
Bar Automatic
ヤナガセ

【宝塚市】
Bar domingo

■ウスターソース 野菜や果実の汁やピューレを濃縮し、砂糖や酢、塩、香辛料を加えた液体調味料。英ウスターが発祥地とされる。日本農林規格(JAS)では、粘度に応じてウスターソース、中濃ソース、濃厚ソースに分類される。兵庫県は有数の「ソース県」で、2021年経済センサスで出荷量、出荷額、事業者数がいずれも全国2位。