「解体の仕事なので当時、ほこりがそこら中に舞っていた」と話す登日廣幸さん=神戸市中央区
「解体の仕事なので当時、ほこりがそこら中に舞っていた」と話す登日廣幸さん=神戸市中央区

 阪神・淡路大震災では24万棟もの建物が一瞬にして全半壊した。災害廃棄物は2千万トンに及んだ。がれきや粉じんに含まれた微細なアスベスト(石綿)繊維が飛散し、吸い込んだ人々は将来の発症リスクを負った。発生から今年で31年。被災地ではがれき処理に携わった労働者が中皮腫を発症し、相次いで労災認定されている。住民にも被害が広がる。震災アスベスト。阪神・淡路は、災害多発列島の日本に予防と対策を求める警告を発している。(特別編集委員・加藤正文)

「時限爆弾を抱えて生きている」

 ビル解体やがれき処理に従事した登日(とび)廣幸さん(55)=南あわじ市=は、当時吸った石綿が原因で悪性胸膜中皮腫を発症したとして、神戸西労働基準監督署から労災認定された。復旧作業などでの認定9人目だ。

 登日さんは1997年、大学卒業から半年間、アルバイトとして神戸・三宮の東門街付近でビル解体などに従事。同年10月に土木工事会社に入社し、神戸市灘区の高羽川復旧工事で現場監督を務め、ビル解体の粉じんが舞う傍らにいた。翌春から同市西区の残土処分場で震災がれきや残土の運搬、整地作業を行った。

 当時の様子を語った。「ほこりは舞っていたのでいろんなものを吸うんだろうなという思いはあった。それが病気のリスクがあるとは感じていなかった。マスクをしていたかどうか…。はなをかんだら真っ黒だった記憶がある」

 時をへて実家のある南あわじ市に戻った。2024年、胸水がたまり胸膜炎と指摘され、検査の結果、胸膜中皮腫と診断された。25年6月、胸膜剝離手術を受け、今は症状が安定している。「被災地に関わった人は時限爆弾を抱えて生きていることを知ってほしい」

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 昨年10月、神戸大であった日本石綿・中皮腫学会で注目すべき事例が報告された。「非職業性アスベスト曝露(ばくろ)が示唆された悪性中皮腫の一例」。報告者は神戸医療センター(神戸市須磨区)臨床検査科の糸山光麿さん(65)だ。病理検査技師、細胞検査士として多数の症例を見てきた。

 報告したのは60代女性のケースだ。家屋倒壊の激しかった地域に居住。細胞を見れば中皮腫を示唆する形態が認められ、検査の結果、確定診断に至った。糸山さんは震災時の被害を「一度に多数の一般市民が低濃度ながら広く曝露するという特殊な状況」「数十年後に健康被害が顕在化する可能性をはらむ」とみる。

 どこで吸引したか不明なまま中皮腫や石綿肺を発症し、労災の対象外の人に向けた国の石綿健康被害救済制度では兵庫県での認定者は2073人(昨年12月末時点)。都道府県別では大阪に次いで多く、東京を上回る。石綿禍は労災と公害とが連続しているのが特徴だ。建物の大量倒壊を引き起こす震災の場合は都市全体がリスクに包まれる大気汚染のような状態といってよい。

 検査に当たる糸山さんは気を引き締める。「これから被災地で発症が増えてくる。私たち検査をする側もしっかり見つけなければいけない。そんな思いだ」

【アスベスト(石綿)】 繊維状の鉱物の総称で耐熱や断熱の機能がある。髪の毛の5千分の1の繊維で潜伏期間を経て中皮腫などのリスクがある。国内消費量は1千万トンで7割が建材向け。尼崎市のクボタ旧神崎工場内外の被害発覚を契機に2006年、製品の使用や輸入、販売が禁止された。