2007年に猟具としての使用が禁じられた「とらばさみ」で、負傷・死亡した野生動物などが全国で少なくとも35個体いたことが、兵庫県立コウノトリの郷公園(豊岡市祥雲寺)の調べで分かった。国の特別天然記念物・コウノトリも2羽含まれるという。とらばさみは、同公園のある但馬地域でも市販されており、調査に当たった獣医師らが違法捕獲の根絶を求めている。(丸山桃奈)
全国紙などの記事データベースをもとに、法律で原則使用が禁じられた07年4月~20年10月の負傷・死亡数を調べた。35個体のうち、種別で最も多かったのがネコの17匹。ほかに、ハイタカやツシマヤマネコなど絶滅危惧種の10個体が被害を受けたという。
野生復帰が進むコウノトリも受難を強いられた。16年と19年に、それぞれ京都府京丹後市、豊岡市で各1羽が負傷。同公園の獣医師松本令以(れい)さん(46)らが、被害調査に取り組むきっかけとなった。松本さんらは結果を論文にまとめ、「とらばさみへの対策は種の保全を進める上での課題の一つ」とした。
論文は、負傷したコウノトリの治療過程にも触れている。19年のケースは豊岡市戸島湿地の人工巣塔で、足が、固定が外れたとらばさみに挟まっていたところを見つけ、行動の観察を続けた。発見から7日目に指の一部が残るとらばさみを湿地内で回収。個体を後日捕獲し、同公園で治療して、86日目に野に放すことに成功した。
とらばさみの市販状況も調べた。但馬地域では、ホームセンターなど7店舗での販売を確認した。使用できるケースは極めて限定的で、適正な使い方を告知する注意書きを張っていない店もあったが、いずれも掲示などを改善する協力が得られたという。
松本さんらは論文で「法改正から一定期間が経過している」とした上で、「とらばさみによる違法捕獲を根絶するためのより効果的な施策や適切な法規制の検討が必要」と訴えた。
松本さんは「コウノトリの負傷も違法捕獲の疑いがある。他の動物や人にも、とらばさみのトラブルに巻き込まれる可能性がある」と話した。論文は、21年12月発行の「日本野生動物医学会誌」に掲載されている。
【とらばさみ】狩猟に使うわなの一種で、鳥獣が踏み板を踏むと引き金が外れ、半円状に開いた金属製の輪が瞬時に閉じて足を挟む仕掛け。大けがにつながる例もあることから、許可がない場合は使用できなくなった。