但馬

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「地域の鉄道の歴史がここにある」と話す岡田芳明さん。余部鉄橋の橋脚に使われた鋼材が存在感を放つ=新温泉町浜坂
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「地域の鉄道の歴史がここにある」と話す岡田芳明さん。余部鉄橋の橋脚に使われた鋼材が存在感を放つ=新温泉町浜坂
【上】貴重な鉄道グッズが所狭しと並ぶ鉄子の部屋【下】開館10周年で設置されたプラレール。子どもたちに絶大な人気を誇った=新温泉町浜坂
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【上】貴重な鉄道グッズが所狭しと並ぶ鉄子の部屋【下】開館10周年で設置されたプラレール。子どもたちに絶大な人気を誇った=新温泉町浜坂
愛用した黄色のジャケットを着て閉館のあいさつをする(左から)岡田芳明さんと前田清治さん=新温泉町浜坂
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愛用した黄色のジャケットを着て閉館のあいさつをする(左から)岡田芳明さんと前田清治さん=新温泉町浜坂
【上】久谷駅の開業を喜び、美方郡長が読んだ祝辞文【下】浜坂駅前で販売された駅弁の包装紙=新温泉町浜坂
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【上】久谷駅の開業を喜び、美方郡長が読んだ祝辞文【下】浜坂駅前で販売された駅弁の包装紙=新温泉町浜坂
「鉄子」の藤尾桂子さん夫妻が営む「ふじおミニ鉄道資料館」=朝来市山東町矢名瀬町
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「鉄子」の藤尾桂子さん夫妻が営む「ふじおミニ鉄道資料館」=朝来市山東町矢名瀬町

 「ただいまをもちまして閉館といたします」。3月末日、兵庫県新温泉町のJR浜坂駅にある鉄道グッズ館「鉄子の部屋」前で、元国鉄職員の岡田芳明さんらスタッフが深く頭を下げ、同館はその役目を終えた。2008年4月の開館から丸14年で約10万8千人が来館。貴重な展示品が数多く並び、鉄道ファンや地域住民に愛された。希少な品の紹介とともに同館の歩みを振り返る。(末吉佳希)

 鉄子の部屋は、観光の集客や住民の交流促進を目的に、同町がJR西日本から空きスペースを無償で借りて設置。開館式では、馬場雅人町長(当時)と、国鉄OBで館長(同)の下田英郎さんによる「出発進行」との高らかな宣言で幕を開けた。

 当初の展示品は「西日本鉄道OB会豊岡支部浜坂地区」などから借り受けたものが中心で、明治期に浜坂駅で開業を喜ぶ住民たちの写真や、昭和期の路線図など約100点が並んだ。その後も鉄道ファンや住民たちの申し出があり、機関士や車掌長などの腕章、鉄道模型、制帽、記念切符などが次々に寄せられ、最終的には340点を超えた。

 岡田さんが館内を見渡し「昔はこの半分ほどの広さだった」と振り返る。09年の工事で駅舎内の壁が取り払われ、約45平方メートルに拡張された。展示品ケースも増え、1912(明治45)年に久谷駅が開業した際の祝賀会で披露された祝辞文など、明治末期の資料が追加されたという。

 「国鉄とともに生きたまちの歴史がここにある」と岡田さん。飾られたモノクロ写真のうち、同年に開通した久谷-余部間の「桃観トンネル」で撮影されたとみられる1枚が目を引く。香美町と新温泉町を隔てる桃観峠を貫く全長約2キロのトンネルは、落盤事故などで多くの犠牲者が出た難所工事で、当時の鉄道院総裁、後藤新平が視察に訪れた。岡田さんは「先人たちの大変な苦労が目に浮かぶ」と静かに語る。

 朱色の塗装に、所々がさび付いた大きな鋼材もひときわ存在感を放つ。2010年に架け替えられた余部鉄橋の一部で、JR西から提供されたという。

 鉄子の部屋の存在意義について、県立歴史博物館(姫路市本町)の学芸員で、近代化遺産などを研究する鈴木敬二さん(55)は「(鉄子の部屋は)地域の歴史を伝える重要な役割がある。行政主体の施設整備は県内でも珍しい」とする。また「山陰線は但馬の繁栄に不可欠な重要なインフラ」とし、「山あり谷ありの美方郡で行われた桃観トンネルや余部鉄橋は最難所で、先人たちの努力の結晶」と解説する。

 閉館は、県などが進める都市計画道路の整備に伴うものだ。展示品は近くのまち歩き案内所「松籟庵(しょうらいあん)」に一部が引き継がれ、夏ごろに公開される予定だが、国鉄時代の制帽や襟章など貴重な品々の大半は所有者に返還されるという。

 惜しむファンは多く、最終月には月別で過去最高の1502人が訪れた。最終日に孫と訪れた鳥取県岩美町の男性(64)は「これだけの貴重品を管理するのも大変だろう」と理解を示し、「それでも、もったいないよなぁ」と残念がった。

 3月31日午後4時、水色ののれんを外し、鉄子の部屋は閉じた。岡田さんはスタッフのユニホームとして愛用したジャケットを脱ぎ、しばらく見詰めた。「第二の人生が終わったような気分」と目を伏せ、静かに物置にしまった。

     ◇     ◇

■朝来にも「鉄子の部屋」 父の遺志継ぎ、藤尾さん夫妻運営

 「鉄子」は女性の鉄道ファンの俗称だ。朝来市に鉄道好きの父の遺志を継いだ「鉄子の家族」が資料館を営んでいると聞き、同市山東町矢名瀬町を訪ねた。

 JR梁瀬駅から車で5分。街道沿いの宿場町として栄え、昭和レトロの雰囲気が漂うまち並みの一角に、藤尾桂子さん(66)と夫の泰彦さん(69)が自宅横の空き家を改装した「ふじおミニ鉄道資料館」がある。

 「11年11月11日」のように同じ数字が並ぶ「ぞろ目」の日に購入した特別切符や、「サボ」と呼ばれる行き先表示板、往年の時刻表など数百点がショーケースに飾られている。

 開館は2011年。前身は桂子さんの父忠雄さんが自宅を開放して収集品を紹介した取り組みだ。08年に忠雄さんが他界後、桂子さん夫妻が「少しでも多くの人に鉄道の面白さを知ってほしい」と手作りした。地元小学生が授業の一環で訪れるなど地域に愛されている。

 もともと予約制だが、最近は新型コロナウイルス禍で開館する機会を減らし、施設の改修に取り組む。

 鉄道旅行で全国を縦断し、集めた駅の入場券は3万枚を超える。桂子さんは資料館の壁一面を埋め尽くす入場券に目をやり、「ここは鉄道を愛した父が生きた証明。できる限り続けたい」とほほ笑む。

 入館無料。事前予約制。ふじおミニ鉄道資料館TEL090・6758・3589

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