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ベニズワイガニの初競りに臨む澤田敏幸さん。そばには帳面書きや札入れが控える=香住漁港西港
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ベニズワイガニの初競りに臨む澤田敏幸さん。そばには帳面書きや札入れが控える=香住漁港西港
守山将夫さん(手前左)の競りは小気味よい節回しが特長だ=香住漁港西港
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守山将夫さん(手前左)の競りは小気味よい節回しが特長だ=香住漁港西港
香住漁港の競りに参加する仲買人は61業者。それぞれの屋号や商標を覚えていなければ、話にならないという=香住漁港西港
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香住漁港の競りに参加する仲買人は61業者。それぞれの屋号や商標を覚えていなければ、話にならないという=香住漁港西港
手振りの「1」と「6」
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手振りの「1」と「6」
手振りの「2」と「7」
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手振りの「2」と「7」

 競りの開始を知らせるリン(鈴)の音が響くと、早朝の港はにわかに活気づく。「サンマン(3万)サンマンサンマンサンマンサンマンサンマン…!」。たった一人で数十人の仲買人と相対し、競りの一切を仕切る競り人とは、一体どんな仕事なのか。香住漁港西港(兵庫県香美町香住区若松)の競り人を取材した。(長谷部崇)

 香住漁港で競り人を務めるのは、但馬漁業協同組合香住支所販売課の3人。カニは販売課長の澤田敏幸さん(54)=競り人23年目=が担当。底引き網漁は守山将夫(のぶお)さん(39)=同12年目=で、サザエ、アワビなどの採介藻(さいかいそう)や釣りものは中途採用の山中徳昭さん(49)=同3年目=が担う。

 競り人はまず、競りにかける箱数や競り出しの価格をうたい、仲買人の「手振り」を読みながら、価格を連呼。頃合いを見て最高値で競り落とす。

 競り人にもキャリアを積む順序があり、同漁港では採介藻や釣りものからスタートする。沿岸イカ、定置網などを経た後で、やっと底引き網漁やカニ漁を任される。

 澤田さんはいう。「魚をできるだけ安く買おうとする仲買人に対し、漁業者の代わりに一番高いものを競り落とすのが競り人の仕事です。仲買人の手を読むだけじゃなく、周りを見る目やその場の雰囲気をつかむ洞察力、強い気持ちも要る。(高い)手を『出させる』競りをするとかね。何よりハマのこと、香住の漁業全体の動きが分かっていないと」

 競り落とした仲買人の商標を札に書き込む「札入れ」や帳面を付ける「帳面書き」は、競り人にとって登竜門だ。澤田さんも競り人になるまでに札入れを4年、帳面書きを1年経験したという。

 どの季節にどんな魚が揚がり、ベニズワイガニや底引き網などそれぞれの船がどう動くのか、1年経験しただけでは分からない。2年目もうろ覚え。3年目でようやく全体像が見えてくる。漁業者や仲買人との信頼関係も考えれば、下積みに5年は必要という。「命を懸けて取ってきた魚を少しでも高く売ってほしいというのが漁業者の願い。『この子なら任せられる』という信頼関係は一朝一夕には築けない」

 そういう澤田さんも、初めて競りを任された時の重圧と緊張は相当なものだったという。「やべーな…」。仕事が終わった後、車を余部埼灯台(香住区余部)まで走らせ、「誰もいないところでワーワー練習していましたね」。それでも本番は緊張で頭が真っ白になったそうだ。

■「超早口」かつリズミカルに

 競り人は「超早口」かつリズミカルな節回しで一体何を言っているのか。守山さんの競りを動画で撮影し、何度もリピート再生して文字に起こしてみた。

 はい次は(競り棒でトロ箱を数えながら)ニ、シ、ロッ、ハッ、ト、えー22杯。はい22だ。はいじゃ22杯、これがーサンゼンガック(3500円)、ガック(500円)、ガックガックアー、ガックアー、ハッピ(800円)アー、ハッピ、ヨンセン(4千円)アー、ヨンセンアー、ヨンセンエンでー、はい、サッと手が出て、はいオビナタ、クワナ(仲買人の屋号。いずれも仮名)だ。はいヨンセンサン(4300円)でー、オビナタ、クワナで分けといてっ。

■仲買人の「手振り」読み取り 頭の切れ、洞察力で手際よく

 「競りはスピードが命。競り人はいそしい(まめに動く)子じゃないと務まらない。ちんたらやってたら夜になっちゃいますから」(澤田さん)。競りを手際よくさばくには、頭の切れや空気を読む力も必要だ。

 例えば、トロ箱1杯の相場が4万円だとする。次の箱に同じ魚介が4分(4割)入っていれば、相場は1万6千円。じゃあ競り出しは1万2千円で出てみるか-。競り人は、競り場を移動する一瞬で、そんな暗算をしながら一つ一つの競りを組み立てる。

 手振りでは指の本数で競り値を示す。人さし指を1本だけ立てれば「1」。そのまま中指、薬指、小指の順で出すと「2」「3」「4」となり、親指を出して手が開くと「5」を表す。

 1~9を片手のみで表現するため、1と6(人さし指のみ)、2と7(人さし指、中指の2本)はそれぞれ同じ手振りとなる。仮に、1300円の競り出しで仲買人が指を2本立てた場合、競り人が「7」と読んで1700円と取っても、「2」と推量して2千円と捉えても、手振りの上ではどちらも正しい。あえて2千円とうたって反応をみるような駆け引きもあり、競り人の腕の見せどころだ。

 仲買人は競り人に育てられ、競り人もまた仲買人に育てられるという。「たとえ隣の柴山港で競りをやれと言われてもできません。仲買人の顔ぶれも競り方も違いますから」と澤田さん。競り人は、漁業者や仲買人とともにその港で生きていく。「理想を言えば、漁業者からも仲買人からも『ありがとな』と言ってもらえる、そんな競りを目指したい。なかなか難しいですけどね」

 【但馬の競り人】但馬漁協の競り人は、香住漁港=3人▽柴山港=2人▽竹野港=1人▽津居山港=3人。柴山港の競りは、仲買人が価格を手持ちの黒板に書く「入札」で、ほかの3港は手振りで価格を競う「競り上げ」。競りのやり方や言い回しは港によって違い、競り人でも「ほかの港の競りは慣れるまで分からない」(澤田さん)という。浜坂漁協の競り人は、浜坂漁港が4人、諸寄漁港が2人。浜坂漁協では千円を「1貫」、2千円を「2貫」と数え、手振りによる競り上げのほか、冷凍イカや冷凍アカエビは入札で行う。

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