男性の衣装は2枚の肩パッドのみ。むき出しの肉体が躍動する、劇団鹿殺しの代表作「ショルダーパッズ」が、とうとう世界に“見つかった”!
8月に英国で開催された世界的な舞台芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」で、初参加団体としては異例の全公演完売を達成。厳しい制作環境で高いパフォーマンスを発揮した団体に贈られる「Mervyn Stutter Spirit of Fringe」を受賞した。座長の菜月チョビは現地の反応を振り返り「観客が先入観のない目で作品と向き合い、想像力を働かせて一緒に物語をつくってくれた」と語る。
「ショルダーパッズ」は、劇団が2004年から手がける演出手法。肩パッド2枚の「究極にシンプルな」衣装が出演者と観客の想像力を刺激し、物語の世界を無限に広げてくれるという。「銀河鉄道の夜」「星の王子さま」など、児童文学の名作を独自の解釈で音楽劇にアレンジし、上演してきた。「この作品なら世界に通じるはず、という自信はあった」と菜月。
実行に移すきっかけとなったのはコロナ禍だ。劇団の活動が停滞し、解散も視野に入れた話し合いの中で「どうせ続けるなら、自分たちの納得できる作品で、より多くの人とつながりたい」との思いが芽生えた。
ただ、国内での観客層の広がりには限界を感じていた。「鹿殺し」というとがった劇団名に、ほぼ裸の“色物”感あるビジュアル。菜月は「一度でも見てもらえれば、私たちが『まじめに演劇をやっている』ことが伝わるのに、その機会がつかめなかった」とため息をつく。海外で新たな観客と出会い、その成果を持ち帰ることで国内の観客にアピールするのが、海外挑戦の狙いだった。
とはいえ、無名の劇団が海外の芸術祭で注目を集めるのは用意ではない。行ったはいいが何の成果も得られず「劇団が吹き飛ぶ」不安と闘いながら準備を進めた。国内で好評だった「銀河鉄道の夜」に英語字幕を入れ、海外向けに再構築。クラウドファンディングで資金を募り、ようやくたどり着いた英国で待っていたのは、思いも寄らない事態だった。
「ポスターのビジュアルが受けて、チケットが初日から完売だったんです」。劇場に詰めかけた観客は、初めはお尻丸出しの俳優に大笑いしていたが「だんだん物語に引き込まれて、最後は泣いている人もいた」。笑いで心をほぐし、素直な気持ちで想像の世界を楽しむ「ショルダーパッズ」の精神が、世界に届いた瞬間だった。
評判が評判を呼び、チケットは早々に全公演完売。現地メディアもこぞって高評価を付け、想像を上回る大成功を収めた。菜月は「世界には私たちを好きになってくれる人がまだまだいるはず。これからも海外に挑戦したい」と力強く語った。
この成果を引っ提げ、11月30日~12月7日に東京・下北沢で凱旋公演を行う。「銀河鉄道の夜」の英国上演版と日本語版に加え、劇団の新作「銀河鉄道の朝」の計3作を同時上演する。菜月は「今の私たちの全てが詰まっている。とにかく一度、見に来てください」とアピールした。
【ショルダーパッズ「銀河鉄道の夜」英国上演版&日本語版、劇団鹿殺し「銀河鉄道の朝」3作同時上演は11月30日~12月7日、東京・下北沢の駅前劇場で。】
























