安倍晋三元首相の銃撃事件を契機に、自民党を中心とした政治家と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との不明朗な関係が相次いで発覚した。事件から1年を経ても、教団との長く深い関わりの解明は進んだとは言い難い。それどころか、疑惑をうやむやにしたまま幕引きを図ろうとしている印象すら受ける。本当に関係を断ち切ったのか。徹底した検証が不可欠だ。
銃撃事件の被告は、母親の多額献金で家庭が崩壊したと教団に恨みを抱き、密接な関係があった安倍氏を狙ったと供述している。
自民党が昨年9月に公表した調査結果では、選挙の組織的支援や関連団体会合への出席など教団と何らかの接点があった党所属国会議員は全体の4割超、179人に上る。あくまで自己申告で、内容も具体性に欠けた上、地方議員は調査の対象外となっており、実態解明には程遠い。
岸田文雄首相(自民党総裁)は教団との関係断絶を宣言したが、安倍氏と教団の親密さなどは調査を拒んだ。同様に深い関係を指摘された細田博之衆院議長は、国民に自ら説明することから逃げ続けている。
党と教団の関係の全容はいまだ明らかではない。教団の意向が政治や行政を不当にゆがめた事実はないのか。教団の名称変更に閣僚が関与した疑惑も残されたままだ。
過去の結びつきを真摯(しんし)に省みる姿勢も乏しい。教団との接点が次々と判明し、閣僚を更迭された山際大志郎氏は「関係を断つ」との誓約書だけで次期衆院選の公認候補に決まった。国民の疑問を曖昧にしたままでは、政治不信は拭えない。教団との決別を掲げる首相の本気度を疑う。
一方、文化庁は教団への解散命令請求も視野に、宗教法人法に基づく質問権の行使を重ねる。信教の自由との兼ね合いもあり、法令違反の確認などに時間を要している。
調査の長期化に伴い世間の関心が薄まってしまわないかが気がかりだ。質問や回答の具体的な中身が明らかにされず、検証不能な状況で調査が進む点も注視が必要だ。政府が恣意(しい)的に判断しないよう、調査内容や見通しの説明を求めたい。
被害者の救済は緒に就いたばかりだ。高額献金を規制しようと昨年12月、不当寄付勧誘防止法が成立した。寄付者や家族の生活維持を困難にさせない配慮義務を設けたが、実効性を疑問視する声も多い。信者の親の下で困窮する「宗教2世」の支援にも手だてを尽くさねばならない。
被害救済と再発防止の対策を前に進めるためにも、問題を風化させてはならない。政府や自民党は、教団が政治に関与し続けた実態の解明と関係清算に全力を挙げるべきだ。