サッカーの元スペイン代表で、世界的名手のアンドレス・イニエスタ選手がこの夏、惜しまれながらJリーグ1部(J1)ヴィッセル神戸を退団した。欧州より格下のJリーグで全力を尽くし、本物のプレーでサポーターを楽しませてくれたことに感謝したい。
イニエスタ選手は状況判断やパスセンスに優れ、スペインの強豪バルセロナで欧州チャンピオンズリーグ制覇などに貢献した。ワールドカップ(W杯)は2006年から4大会連続出場し、10年南アフリカ大会では決勝のオランダ戦で延長後半に決勝ゴールを決めるなど、母国のW杯初制覇の原動力になった。
ヴィッセルには18年に加わり、19年には主将に就任。20年1月1日に行われた天皇杯全日本選手権決勝、対鹿島アントラーズ戦ではチームを束ね、クラブに初タイトルをもたらした。
休日には神戸・三宮で街歩きを楽しみ、請われれば立ち止まって写真に納まった。そんな人柄に引き寄せられるように、ヴィッセルには日本代表経験者らが続々と加わった。
現在も攻撃陣をけん引する大迫勇也選手と山口蛍選手は「アンドレスとプレーしたくてここに来た」と口をそろえる。普段の練習でも選手やスタッフに自ら声をかけた。取材陣にも折に触れ感謝の言葉を発した。壁をつくらず、礼を尽くすその姿勢が、神戸でも愛された理由に違いない。
イニエスタ選手には、ボール保持を重視する「バルサ化」と呼ばれるプレー手法を各選手に浸透させる役割が期待されていたのに、J1残留争いに巻き込まれるなど、昨シーズンは結果が出せずに終わった。さらに現在のヴィッセルが、「バルサ化」に代わって仕掛ける堅守速攻の戦術にイニエスタ選手は適応し切れなかった。プロらしく、現在の立場を受け入れたが、無念は察するに余りある。
7月1日、神戸での対北海道コンサドーレ札幌戦がイニエスタ選手の最終戦となり、先発して2万7千人の観衆に別れを告げた。薫陶を受けた選手たちの活躍で、チームは首位争いを続けている。残してくれた財産を生かし、今季こそサポーターの期待に応えてほしい。
























