発がん性などが懸念され各国で使用の禁止や規制が進む有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))について、明石川流域に住む明石市民の血中濃度を調べたところ、9人中6人から、健康を害するリスクが生じるとされるドイツの基準値を超える数値が検出された。小泉昭夫京都大名誉教授らが明らかにした。
小泉氏は「ただちに病気に直結する数値ではない」としつつ、飲み水の影響を指摘する。PFASは分解されにくく体内に蓄積するとされるが、国内では血中濃度に関する基準がなく、調査結果を軽視してはならない。
PFASは水や油をはじき、熱に強い化学物質で、調理器具のフッ素樹脂加工や食品の包装、繊維の表面処理、半導体製造、泡消火剤などに広く使われてきた。少なくとも4700以上の種類があるとされる。
代表的なPFOS、PFOAなどは、その有害性からストックホルム条約で製造や使用が原則禁止され、日本でも2021年までに製造、輸入が原則禁止になっている。
調査は今年8月、13~76歳の市民に実施した。6人は工場排水などが原因とされるPFOAの数値が、血液1ミリリットル当たり10ナノグラム(ナノは10億分の1)というドイツの基準を超え、最大で27ナノグラム、平均13・4ナノグラムだった。一般的には高齢者ほど高い傾向があるが13歳でも基準を超えた。
だが原因を究明するにも、9人のデータだけでは難しい。小泉氏らは最低300人以上の調査を明石市に申し入れた。環境省は一地域での重点的な調査には慎重な姿勢だ。国と自治体が連携し、実態調査に早急に取り組んでもらいたい。
水道水のPFOSとPFOAについては、厚生労働省が20年に全国39カ所の浄水場で調べた。明石市の明石川浄水場では国の暫定目標値(1リットル当たり合計50ナノグラム)を下回り、直近の測定でも5~10ナノグラム以下となっている。また同市は25年度から明石川での取水を減らし、28年度には完全になくすとしている。
ただ、小泉氏らの調査では、淀川の水を水道水に利用する尼崎市の住民10人のうち1人の血液もドイツの基準を超えていた。泡消火剤を使う米軍基地がある沖縄県や東京都の多摩地域では、高濃度の検出で取水を停止した施設がある。汚染は全国的な広がりをみせており、限られた水源の問題とは考えにくい。
環境省はPFASの有害性について本格的な研究に乗り出す。米国は飲み水1リットル当たりPFOSとPFOAそれぞれ4ナノグラムという厳格な基準を示し、年内にも決定する。日本でも研究結果を基に、暫定目標値を見直すかどうかの検討を急ぐべきだ。