生産効率や成長を優先するあまり、品質軽視の風潮がまん延していたのではないか。2023年の自動車販売台数が4年連続で世界1位となったトヨタ自動車グループで、新たな不正が明らかになった。

 グループの中核企業の一つ、豊田自動織機は、トヨタから開発、生産を委託された自動車用ディーゼルエンジンの性能試験でデータ改ざんなどを繰り返していた。これを受け、トヨタは「ランドクルーザー」や「ハイエース」などの国内外10車種の出荷を停止した。

 端緒となったのは、23年3月に豊田自動織機で発覚したフォークリフト用エンジンの排ガス試験を巡る不正である。外部の弁護士らでつくる特別調査委員会が調べたところ、自動車用でも法規違反が見つかった。17~21年、エンジンの性能を良く見せるために燃料の噴射量を調整するなどしていた。

 ドイツのフォルクスワーゲンで排ガス規制逃れの大規模な不正が判明し、欧州で問題になったのは15年だ。あきれたことに、豊田自動織機はその後に不正を始め、漫然と続けていた。危機管理の意識が欠落していたと言わざるを得ない。

 トヨタグループでは22年以降、傘下の日野自動車やダイハツ工業で悪質な不正が相次ぎ明るみに出た。いずれも、車の量産に必要な国の認証試験をクリアするために測定データなどに手を加えていた。開発スケジュール優先の経営陣の姿勢などが原因として指摘された。

 顧客の信頼を裏切るばかりでなく、認証制度の根底を揺るがす事態である。グループトップのトヨタの責任は極めて重い。不正をグループ全体の問題と捉え、組織風土や企業統治の在り方を根本から改革する必要がある。

 豊田章男・トヨタ自動車会長はグループのビジョン発表のための記者会見で「私自身が責任者としてグループの変革をリードする」と述べた。カリスマ性を持つ豊田氏の手腕が問われると同時に、製造現場を含む組織全体で危機感を共有できるかどうかが鍵となろう。

 豊田自動織機の特別調査委員会は、不正の根本原因として「トヨタから指示されたことは実行できるが、自分たちで問題や課題を発見、解決する力が弱い『受託体質』」を挙げた。グループの各企業が克服すべき重要課題と言える。

 日野自動車とダイハツ工業と同様に、豊田自動織機でも認証部門が本来のチェック機能を果たしていなかった。製品への安心感は、適正な品質保証に裏打ちされてこそである。原点に立ち返り、トヨタグループは信頼回復に全力を尽くしてほしい。