大相撲春場所千秋楽で、新入幕で東前頭17枚目の尊富士(たけるふじ)が豪ノ山に勝ち、13勝2敗で初優勝した。新入幕優勝は1914(大正3)年の両国以来110年ぶりとなる。初土俵から所要10場所での制覇は、年6場所制となった58年以降最速(付け出しを除く)で、大銀杏(おおいちょう)を結えない力士の優勝は初めてだという。

 平幕最下位で臨んだ今場所で、24歳の新星が成し遂げた快挙に大きな拍手を送りたい。

 千秋楽の大一番は多くの人に感銘を与えた。14日目に敗れて右足を負傷し、歩けないほどの状態だったにもかかわらず、テーピングで患部を固めて出場した。豪ノ山を相手に右で張って左を差す。土俵際で粘られても、強く前に出て押し倒した。

 その瞬間、喜びと安堵(あんど)感、充実感に満ちた表情を見せ、その後うれし涙を流した。「気力だけで取った。もう一度やれと言われても無理」と振り返った。想像を絶する激痛に耐えての勝利だったのだろう。

 殊勲賞、敢闘賞、技能賞も受賞した。今場所では初日から11連勝し、60年初場所で大鵬が残した新入幕最長記録にも64年ぶりに並んだ。2000年以来、6人目となる三賞総なめにふさわしい大活躍だった。

 尊富士の持ち味は、鋭い立ち合いと一直線に押し出す速攻相撲だ。身長184センチ、体重143キロと近年では決して大型ではない。基本に忠実な技と、50メートル6秒台で走るという瞬発力がその強さを支えている。

 八角理事長も「前に出る勇気があり、勝負勘もいい。全ての動きが的確だ」と賛辞を惜しまない。

 出身は青森県五所川原市で、相撲の強豪・鳥取城北高校、日本大に進学した。高校では左膝のけがに苦しみ、大学でも主要タイトルを獲得できなかった。しかし故障にめげずに地道に続けてきた努力が、今年初場所の新十両での優勝、今場所の優勝につながったに違いない。

 幼少期から相撲一筋に打ち込んできたが、趣味はいい香りのするボディークリームを探すことだという。いかにも今どきの若者らしい。

 優勝を決めた尊富士は「記録じゃなく、記憶に残る力士になりたい」とし「いい景色を見たい。横綱、大関を目指すのが相撲道」と話した。堂々と目標を語る姿は頼もしい。けがに気をつけながら稽古を重ね、さらなる高みを目指してほしい。

 今場所では、入幕2場所目で11勝を挙げ、最後まで優勝を争った大の里も2度目の敢闘賞と初の技能賞を獲得した。大の里も23歳で、相撲界では若手の台頭が目立つ。一方で横綱照ノ富士は腰痛で途中休場し、4大関も万全とは言えない。上位陣にもぜひ奮起してもらいたい。