ロシア大統領選で「圧勝」による通算5選を演出したプーチン大統領が、大きな試練に立たされている。開票の5日後、首都モスクワ郊外のコンサートホールで銃の乱射などによるテロが発生し、130人以上が死亡、180人以上が負傷する大惨事となった。

 実行犯の4人を含む11人が拘束され、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。市民を巻き込むテロは決して許されない。真相を徹底解明する必要がある。

 国際法違反のウクライナ侵攻から2年が過ぎ、ロシアは長期戦による国力の消耗に直面している。今回のテロは、国内の治安体制が手薄になった虚を突かれた。

 見過ごせないのは、米国から事前にテロの動きについて警告を受けながら、ロシア側が凶行を防げなかった点だ。かつてないほど関係が悪化した米国による「陽動作戦」とみて軽視した可能性があるが、情勢分析の曇りは深刻だ。

 ロシアはウクライナ侵攻を「自衛」の名の下に正当化してきた。現在の戦況はロシア有利とされるが、国境を接するフィンランドやスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を招き、周辺国との対立の構図が鮮明になった。さらに国内のテロ対策に追われれば、苦境を深めることになりかねない。

 プーチン氏は孤立の道を捨て、国際協調にかじを切るべきだ。それにはウクライナからの全面撤兵が前提になる。

 大統領選で侵攻に反対する候補者の立候補を許さず、民意を測る機会を自ら閉ざした罪は重い。現職以外の3候補は、いずれもウクライナでの「特別軍事作戦」に反対していない。国民に「反戦」の選択肢は与えられなかった。

 公務員らへの投票強制など得票や投票をかさ上げする露骨な手法が目立ち、国際機関による選挙監視も認めなかった。プーチン氏は「国民の信頼に感謝する」と勝利宣言したが、信任を得たとは到底言えない。

 テロ後、ロシア側は不穏な動きを見せている。襲撃にウクライナや米国が加担していると主張し始めた。ウクライナ側は否定するが、ロシア側が統制強化の口実に利用し、攻撃を激化させる恐れもある。

 捜査を尽くさないまま、テロを西側諸国へのさや当ての材料に使うのは極めて危険だ。テロ組織を利し、新たなリスクを高める結果になりかねない。

 ロシアは硬直した外交方針を捨て、周辺諸国との共存の道を探らねばならない。独りよがりの路線に固執すれば国内外の不信が高まり、国益を損なうと心得るべきだ。