小林製薬(大阪市)の「紅こうじ」を使ったサプリメントによる健康被害が深刻化している。腎疾患などで4人が死亡し、神戸市の女性を含む100人以上が入院した。大阪市は自主回収の対象である3製品の回収命令を出したが、海外を含め被害が拡大する恐れがある。企業と国、自治体は原因究明を急ぎ、消費者の不安を払拭せねばならない。
健康被害は昨年9月以降に製造されたサプリ「紅麹(こうじ)コレステヘルプ」に集中している。納入先は170社以上に及ぶが、最終的な流通先は把握できていない。原料供給先の食品会社なども製品の自主回収に追われ、事態を広げた責任は重い。
サプリには未知の有害物質が含まれていたとみられる。同社によると、製造過程で別のカビなどが混入した▽紅こうじ菌の発酵過程で有害物質が発生した-のいずれかが考えられるという。
過去には紅こうじから生じたカビ毒「シトリニン」による健康被害が欧州で確認されたが、今回の紅こうじの遺伝子はシトリニンを発生させにくい構造だったとされる。いまだに原因物質すら特定できないことを重く受け止めるべきだ。
被害への対応にも問題がある。小林製薬は1月15日に医師から被害情報の連絡を受けながら、3月22日まで明らかにしなかった。死者の1人は2月まで摂取していたという。公表の遅れが被害の拡大を招いた可能性は否めない。同社の小林章浩社長はきのうの定時株主総会で対応の遅れを認め、謝罪した。
問題のサプリは2015年に始まった機能性表示食品制度に基づき悪玉コレステロールの値を下げる効能をうたっていた。制度への信頼を大きく揺るがしかねない事態だ。
サプリなどは成分を濃縮し商品化されるため、わずかでも有害物質が含まれていれば危険性が高まる。だが、機能性表示食品は安全性や効果の根拠となる論文データなどを国に届け出れば販売でき、実質的な審査などの手続きは要らない。臨床試験や国による審査が必要となる特定保健用食品(トクホ)と異なり、企業の責任に委ねられる部分が大きい。
政府は、届け出済みの機能性表示食品全約6800件について緊急点検する方針を示した。企業任せにせず、原因究明と安全確保に国も責任を持って当たるべきである。
過剰な不安の拡大や風評被害を防ぐ取り組みも求められる。
紅こうじは古来、東アジアを中心に広く使われ、独自の発酵文化を育んできた。沖縄県の郷土料理「豆腐よう」などにも用いられている。通常の食品として摂取する分には心配がないことも周知したい。