神戸市立王子動物園で飼育されていた雌のジャイアントパンダ「タンタン(旦旦)」が、28歳で死んだ。国内最高齢のパンダで、人間なら100歳近くに相当する。
阪神・淡路大震災から5年後の2000年に中国から借り受け、本来なら20年に契約満了で返さねばならなかった。ところが新型コロナウイルス禍で帰国できなくなり、翌年に心疾患が見つかったことも重なって返却は延期されていた。
体調管理に専念するため22年には一般観覧が中止になったが、園のSNS(交流サイト)には日々の様子が投稿され、多くのファンをひきつけた。パンダ舎の献花台には昨日朝の開園から、別れを惜しむ人たちの列ができた。
タンタンの「旦」は中国語で夜明けを意味する。同時に神戸に来た雄の「コウコウ(興興)」ともども復興への願いが込められていた。世代を問わず愛され、王子動物園で生を全うしたタンタンは、文字通り神戸の街とともに生きたパンダだった。
タンタンの来神は、日中共同の飼育繁殖研究が目的だった。02年に2代目コウコウを迎え入れ、2度の妊娠につながったが、死産などで次代を育むに至らなかった。コウコウも10年に亡くなったため、王子動物園のパンダはタンタン1頭の状態が長く続いた。
繁殖の目的は達せられなかったが、園がタンタンの行動を24時間録画し、飼育スタッフが分析した長年のデータの蓄積は貴重だ。一番繁殖しやすいタイミングを探り出し、世界の研究者の注目を集めた。タンタンが老年期に入ってからは、パンダの高齢化の研究に活用されている。
タンタンに関する研究論文は40本近くにのぼる。心疾患が判明して以来、園はタンタンが「快適に過ごしてもらう」ことに一丸で取り組んだという。優れたスタッフの存在がタンタンの長寿と、パンダ研究の進展をもたらしたと言えるだろう。
これで国内のパンダ飼育は東京・上野動物園と和歌山県の「アドベンチャーワールド」の2カ所だけになる。神戸市は11年、コウコウの後継の雄1頭を借りることで中国側と合意したが、実現には至っていない。
タンタンの生まれ故郷でもある四川省の保護センターを擁するなど、中国はパンダの飼育や繁殖を国策に位置づける。一方で、世界的な人気に目をつけ、パンダ貸与を外交関係のカードに使ってきた。
沖縄県・尖閣諸島を12年に日本政府が国有化して以来、日中関係は悪化し、パンダ貸与も途絶えたままだ。今後、両国関係が改善へと歩みだし、いつか再び神戸にパンダがやってくる日を待ちたい。