発売から今年10月でちょうど40年になる「神戸ワイン」が、民間企業の下で新たなスタートを切ることになりそうだ。
神戸市の外郭団体、神戸農政公社(神戸市西区)は、地元産ブドウを使ったワインの製造と販売を、白鶴酒造(神戸市東灘区)に譲渡する方向で協議を始めた。両者が記者会見で明らかにした。
合意に至れば、今年秋に契約を結ぶ。白鶴は早ければ年内にワインの販売を始め、2025年度以降は製造も手がける。神戸農政公社は、市内の契約農家からのワイン用ブドウ買い取りを引き続き担う。
神戸ワイン事業は、22年度まで4年連続で赤字だった。新型コロナウイルス禍による販売減や光熱費の高騰が響いた。23年度は収支が改善したものの、老朽化した醸造設備の更新が長年の課題で、民営化の道を探っていた。
地元・灘五郷の大手蔵元に、神戸ワインの将来を託す形となる。譲渡額や設備の継承については、これから詰める。白鶴の担当者は「日本酒でも海外で『神戸ブランド』の引き合いを強く感じている」と語り、輸出に意欲を示す。
正式契約の暁には、民間の機動力を生かして神戸ワインのブランド力をさらに磨き、地元はもちろん、国内外での存在感を高めてもらいたい。日本酒とワインの双方を手がけることで、ビジネス上の相乗効果も期待できるのではないか。
一方の神戸農政公社には、契約農家が高品質のブドウ生産を維持できるよう、栽培支援などに一層力を入れてほしい。温暖化に対応した品種の選定や、生産者の後継者育成が重要課題となろう。
ワイン事業を譲渡した後の収益力強化も待ったなしだ。神戸農政公社は8億4千万円の長期借入金を抱える。神戸市から六甲山牧場などの管理運営を請け負っているほか、多角化の一環で市内産堆肥のペレット化事業に着手している。サービスや商品力の向上が求められる。
神戸ワインは、農業振興を目的に誕生した。農家の協力を得て1979年にブドウが植えられ、83年に醸造が、その翌年に販売が始まった。98年をピークに売り上げが落ち込み、2000年代初頭に経営難に陥った。その後、耕作面積を縮小するなどの経営再建を進めてきた。
近年、神戸ワインのように国産ブドウのみを使い国内で生産される「日本ワイン」は、国内外で関心を集める。日本各地に個人経営の小規模ワイナリーができるなど、製造や消費の多様化も進んでいる。土地に根ざしたワイン造りを官民で進化させ、地域活性化につなげたい。