子育てを社会全体で支える仕組みを手厚くすることには賛成だ。しかし、政策の効果や財源について正面からの議論を避けていては、国民の理解は得られまい。岸田文雄政権は今こそ情報を開示し、丁寧かつ具体的に説明するべきである。
少子化対策関連法案の国会審議が本格化した。焦点の一つが「子ども・子育て支援金」だ。政府は2026年度の創設を目指している。
支援金は、公的医療保険料に上乗せして幅広い年代の国民や企業から集める。児童手当の拡充や、妊産婦への計10万円相当の支給、全ての子育て世帯が利用できる保育サービスの整備などに使う。徴収額は段階的に増やし、3年目となる28年度には計1兆円とするという。
ところが、岸田首相は国民の負担について「実質的にはゼロ」との説明を繰り返してきた。
理屈はこうだ。医療や介護などの社会保障の歳出削減に加え、民間企業の賃上げ効果により社会保険の負担が抑えられるため、その範囲内で支援金を徴収しても追加負担は生じない-。
果たして国民は納得できるだろうか。物価高騰で実質賃金は前年同月比マイナスが続く。そもそも、企業努力である賃上げを「負担ゼロ」の前提条件として持ち出すことに違和感がある。与党からも「分かりにくく、国民の理解が進まない要因だ」との声が上がっている。
政府は今月9日になって初めて、支援金の年収別徴収額の試算を公表した。会社員の場合、28年度に年収400万円なら給与から月650円が天引きされる。年収1千万円では月1650円になるという。
これに先立つ3月末には、国民が加入する医療保険別の徴収額が示された。だが、例えば75歳以上の後期高齢者医療制度では1人当たり平均月350円になるなど、平均額の公表にとどまった。情報を小出しにしつつ、徴収額を変遷させる説明に野党は不信感を募らせている。
さらに、現時点に至っても自営業者が加入する国民健康保険や75歳以上の年収別の徴収額は明らかにされていない。政府が負担増のイメージ回避に躍起になっているとみられても仕方あるまい。早急に制度の実像を提示すべきだ。
支援金の額に注目が集まりがちだが、与野党には少子化対策について多角的な審議を求めたい。
財源確保に医療保険制度を使うことが適切なのか。個々の施策の妥当性や効果をどう判断するのか。これらの観点も重要だ。何より、若い世代が将来展望を持てるような社会の在り方を、当事者の意識や実情を踏まえた上で議論する必要がある。