岸田文雄首相は米ワシントンでバイデン大統領と会談し、安全保障や経済、宇宙など幅広い分野での連携強化を確認した。日本の首相の国賓待遇での訪米は9年ぶりとなる。
両首脳が強調したのは、自衛隊と在日米軍の指揮統制見直しの合意だ。日本が陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させるのに合わせ、米側は在日米軍司令部(東京・横田基地)を格上げし、共同訓練の企画立案や実動部隊の指揮権を一部付与する案を検討する。ミサイルなど防衛装備品の共同開発を促進し、日本企業が米艦船・航空機の補修に従事できる仕組みも整える。
米側が描くのは「唯一の競争相手」と位置付ける中国への対抗戦略である。そこに日本が完全に組み込まれ、専守防衛の域を超えて米軍との一体化が進む懸念は拭えない。
岸田政権は地ならしに余念がなかった。22年に安保関連3文書を改定し、防衛費の大幅増や反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、防衛装備品の第三国輸出解禁を次々に決めた。平和主義に基づく戦後日本の安全保障政策を転換することで、今回の「日米同盟の歴史的な更新」(米国務省)を可能にしたと言える。
問題は、首相がそれを与党協議と閣議決定という政権内の手続きで推し進めてきた経緯である。国民への丁寧な説明と合意形成の努力を欠いたまま、首脳レベルの「約束」として既成事実化してしまう。国民不在の政治手法と言わざるを得ない。
共同声明は、東・南シナ海での中国の一方的な現状変更の試みを名指しで批判した。日本側には、中国が威圧的行動を繰り返す沖縄県・尖閣諸島が米国の対日防衛義務の適用対象と明記され、抑止効果が高まるとの期待もある。だが、中国側が不信感を募らせ、強硬姿勢に傾くようでは元も子もない。日本は独自に対中対話を活性化する必要がある。
11月の米大統領選で「米国第一主義」を掲げるトランプ氏が返り咲けば合意も覆りかねない。党派を超えて日米関係の重要性を訴える地道な外交努力が不可欠だ。
北朝鮮を巡っては日本人拉致問題解決への協力を再確認した。ロシアの侵攻が続くウクライナの支援も申し合わせた。人道危機に全力で向き合ってこそ、国民は両国関係の深化を実感できるだろう。
岸田内閣の支持率は自民党の裏金問題などで20%台に落ち込んだ。首相は外交成果を政権浮揚につなげたい考えだが、合意を国民の納得なしに実行に移せば不信は高まるばかりである。安保政策の大転換について、改めて国民の理解を得る努力を尽くさねばならない。