政府は、子どもと接する仕事をする人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」の創設法案を国会に提出した。学校や保育所などに照会を義務付け、性犯罪歴があった場合、就業希望者は採用せず、現職者は子どもと接触しないよう配置転換などを求める。準備期間を経て、2026年ごろの施行を目指す。

 子どもの心身に深い傷を残す性犯罪の防止は喫緊の課題だ。一方で、憲法の定める職業選択の自由や加害者の更生に配慮する必要もある。衆参両院で議論を尽くし、双方のバランスを図ってほしい。

 性犯罪歴の照会は、裁判所で有罪判決が確定した「前科」に限り、期間は拘禁刑(懲役刑と禁錮刑を25年に一本化)が刑終了から20年、罰金刑以下は10年とした。痴漢や盗撮などの条例違反も含める。

 検討過程では照会期間を無期限にするよう求める意見もあった。だが、刑法は禁錮以上の刑について執行後10年で消滅すると定めている。法案は再犯の傾向を踏まえ、10年を超えても就業を制限する。慎重な審議が求められる。

 性犯罪歴はこども家庭庁が照会システムを構築して管理し、雇用主が確認を申請する。高い秘匿性が求められる個人情報が漏えいしないよう万全を期す必要がある。

 法案は犯歴のない人からの被害防止も図る。子どもの訴えなどで雇用主が「加害の恐れがある」と判断した場合、職場替えなどを求める。

 加害者の大半が「初犯」であることへの配慮だが、危険性の判断は容易ではない。子や親とのあつれきを背景に恣意(しい)的に職場を追われることがないよう、政府は厳密で具体的な指針を示すべきだ。

 「抜け穴」への懸念もある。学習塾や放課後児童クラブ、スポーツクラブなどは任意の「認定制」となった。認定を受けない施設には、犯歴照会の義務はない。

 制度開始3年後に法律は見直されるが、問題点や課題などを詳細に洗い出し、改善に向けた議論を早期に始めてもらいたい。

 日本版DBSは重大な私権制限を含む制度である。社会の混乱を招かないよう、あらかじめ内容について十分周知する必要がある。

 一方で、性加害者を排除するだけでなく、再犯防止や更生を支援する取り組みも欠かせない。

 加害者自身が幼少期に虐待などを経験した場合もあり、カウンセリングを受ける機会の確保は重要だ。性犯罪を繰り返す人に有効な薬物治療や心理療法もある。犯歴を理由に職を失った人への就労支援も要る。再犯を防ぐためにセーフティーネットの強化を急がねばならない。