伊豆諸島の鳥島東方海域で20日深夜、潜水艦を探知する訓練中だった海上自衛隊のSH60K哨戒ヘリコプター2機が墜落した。搭乗していた計8人のうち1人が死亡、7人が行方不明となった。現場は水深が約5500メートルあり捜索は難航している。海自と海上保安庁が連携し、一刻も早い救助に全力を挙げてほしい。

 訓練にはヘリ6機と艦艇8隻が参加し、海自護衛艦隊部隊のトップが隊員の技量を確認する「訓練査閲」を実施していた。夜間でもあり訓練の難易度は高かったという。

 事故当時は大村(長崎県)、小松島(徳島県)の両航空基地などに所属する3機が飛行していたが、先に大村基地のヘリの通信が途絶し、その後、小松島基地のヘリも連絡が取れない状態であることが分かった。

 海自は両機のフライトレコーダー(飛行記録装置)と機体の一部などを一帯から回収した。両機の近接を示すデータもあることから、木原稔防衛相は「両機が衝突した可能性が高い」との見方を示した。受信した緊急信号は一つだったが、近い場所から2機が同時に発すると一つに聞こえる可能性があるという。

 機体の異常を示すデータは確認されていないが、海自は同型機の訓練飛行を当面見合わせるとともに、事故調査委員会を設置した。原因を徹底的に究明して万全の再発防止策を講じなければならない。

 海自哨戒ヘリによる夜間訓練中の事故は相次いでいる。2017年には青森県の竜飛崎(たっぴざき)沖で1機が墜落、21年にも鹿児島県の奄美大島東方沖で2機が接触した。

 21年の事故後、海自は複数の航空機が展開する現場では、高度差を取るよう管制が指示するなどの再発防止策を打ち出した。海自トップの酒井良・海上幕僚長は会見で「再発防止策をしっかり守っていたら衝突は起こらない」との認識を示した。

 今回、なぜ高度を分離する対策が取られなかったのか、接近を知らせるアラートは作動しなかったのか、など詳しい検証が急がれる。

 対潜水艦の訓練を巡っては近年、中国船などによる領海侵入の多発で出動に追われ、十分な時間が割けないと指摘する声もある。背景も分析し、対策に生かす必要がある。

 訓練中以外にも事故が続く。23年4月には沖縄県の宮古島付近で陸上自衛隊UH60JAが墜落し、乗員10人全員が死亡した。制御系の異常で出力が低下する「ロールバック」が起きたと推定されたが、原因を特定できないまま飛行を再開した。

 少なくとも事故の全容が明らかになるまでは「見切り発車」は容認できない。自衛隊は調査を尽くし、原因や対策を丁寧に説明すべきだ。