乗客106人が亡くなった尼崎JR脱線事故から、きょうで19年になる。大切な人を失った遺族らの深い悲しみ、再発防止への強い願いは変わらない。にもかかわらず大事故は相次いでいる。いま一度、脱線事故の記憶と教訓を胸に刻みたい。
今年1月には、羽田空港で日航と海上保安庁の航空機が衝突する事故が起き、海保機の5人が死亡した。日航機も直後に起きた火災で全焼したが、乗客乗員379人は18分後に全員が脱出した。それぞれの冷静な行動がなければ、多くの命が奪われてもおかしくない状況だった。
事故の一義的な原因は、滑走路に2機が同時に進入したことにある。しかし、人為的ミスをカバーするための安全策は二重三重に張り巡らされている。それらがことごとく機能しなかったことも重大な教訓だ。
脱線事故と同様、航空機事故にはソフト、ハード両面の複合的な要因が絡み合い、運輸安全委員会による原因究明は長期化が予想される。事故の刑事責任をどう問うのか、警視庁の捜査はさらに時間がかかる可能性がある。
2016年に長野県軽井沢町で大学生ら15人が亡くなったスキーバス事故で、昨年6月、長野地裁は運行会社の社長らに実刑を言い渡した。運転手が死亡した重大事故で現場にいない管理者の監督過失を認めた異例の判決だが、7年余りを要した。被告の控訴でさらに公判は続く。
同様に運転士が死亡した尼崎の事故では歴代4社長が起訴されたが、全員無罪となった。巨大企業のJR西日本は職務分担が複雑で、個人の過失を問うのは容易ではない。
遺族らは企業の刑事責任を問える「組織罰」の創設を求めてきた。刑法の業務上過失致死罪は個人にしか適用できない。誰も責任を負わない、それでいいのか。法を整備し、企業などの刑事責任を問うべきだ、との声が上がるのは当然だろう。
遺族らは実現しやすい案として、業務上過失致死罪に組織を処罰できる両罰規定を設けるよう提言する。刑法以外の特別法では既に導入されている。新設する両罰規定では企業への罰金を高額にすることで、事前の安全対策を促す狙いもある。
一方、組織罰の導入を巡って、責任追及を優先すれば関係者が訴追を恐れて証言をためらい、原因究明が困難になるとの見方も根強い。
課題は多いが工夫の余地はある。事故調査と捜査を切り離し再発防止を優先させ、刑事裁判では安全対策の立証責任を企業側に課し期間を短縮するなどだ。遺族は原因究明と責任追及の双方を求めている。切実な訴えを受け止め、法制化に向け国会などで議論を深める必要がある。