全国の4割超に当たる自治体は人口減少が加速し、将来的に消滅しかねない-。民間有識者でつくる「人口戦略会議」が、人口移動や将来の推計人口のデータを基に報告書を公表した。

 報告書は、2020~50年の30年間で出産の中心世代となる20~30代女性の数が半数以下となり、行政運営が維持できなくなる自治体を「消滅可能性自治体」と定義した。744市町村あり、兵庫県内でも洲本市や養父市など13市町が該当する。

 出産は個人の自由であり、若年女性の数と人口を直結させることに違和感も抱くが、女性に限らず若年層が流出する地域は将来に希望が描けなくなると捉えるべきだろう。

 日本全体の人口が減り続ける中、各自治体が移住促進や子育て支援策を競い合う現状を「若年人口を近隣自治体で奪い合うかのような状況」と指摘したのはうなずける。安倍政権から「地方創生」を10年近くも唱えながら東京一極集中に歯止めをかけられず、対策を自治体の自助努力に委ねてきたことへの警鐘であり、国は真摯(しんし)に省みるべきだ。

 消滅可能性自治体は10年前にも別の民間組織が公表した。分析手法が異なり単純比較できないが今回は239自治体が「消滅」から脱した。

 興味深いのは、人口移動を加味した場合とそうでない場合の若年女性減少率を示した点だ。人口移動を加味すると減少率が跳ね上がる自治体は数多い。進学先や就職先の少なさに加え、男女平等への理解の乏しさも要因ではないか。

 豊岡市でジェンダーギャップ(男女格差)解消の施策を進めた前市長の中貝宗治氏は、地方からの女性流出を「静かな反乱」と称した。雇用確保やあらゆる世代が住みやすいまちづくりこそが若者を定着させ、結果的に人口増にも結び付くはずだ。

 今回新たに「ブラックホール型自治体」と呼ぶ区分が加わった。流入人口は多いものの出生率は低い自治体を指し、対策の必要性を訴える。京都市や大阪市など25自治体が相当する。東京23区のうち16区が含まれ、一極集中の象徴とも言える。

 30年後には、これらの自治体に流入した若年層が年金など社会保障を受ける年代に近づく。既に首都圏では、高度成長期に流入した団塊の世代が高齢化し、介護施設などの不足が深刻になりつつある。社会保障の担い手を増やすためにも、男性の家事・育児参加を促すなど出生率向上につながる施策が欠かせない。

 地方だけでなく、都市部も人口減への危機感を持たねばならない。同時に、人口が減っても住み続けられる地域社会を支えるための戦略を練るのが、国の責務だ。