小林製薬の「紅こうじ」サプリメントを巡る健康被害の問題は、機能性表示食品の制度全体への信頼性を揺るがしている。これまでサプリが原因とみられる腎機能障害などで5人が死亡、260人以上が入院したが、安全性や機能性(効果)の担保を事業者任せにしてきたつけが回り、原因解明の道筋すら見えない。

 国は制度の在り方を協議する専門家検討会を組織し、5月末をめどに方向性を取りまとめる方針だ。課題を徹底的に洗い出し、機能性表示食品への国民の不安を払拭する抜本的な対策を打ち出さねばならない。

 問題が深刻化した要因は、健康被害への対応の遅れだ。小林製薬側は1月中旬に医師の通報で被害を把握しながら、国などへの報告や公表は2カ月以上後にずれこんだ。その間も被害は拡大し続けた。

 サプリ摂取後に体調を崩した女性患者を、健康被害の公表前に診察した神戸市内の病院の医師は「2月下旬に小林製薬へ問い合わせたが、被害の発生状況に関する情報提供は全くなかった。腎臓の病変の原因が分からず悩ましかった」と振り返る。

 後手に回った対応は原因物質の特定にも大きな影を落とす。

 小林製薬はサプリから毒性の強いプベルル酸を検出したが、腎機能障害との因果関係を解明できないまま調査を投げ出す形となった。国立医薬品食品衛生研究所の分析ではほかにも想定外の成分が複数検出され、特定のめどは立たない。

 機能性表示食品による健康被害に対し、制度のガイドラインは「発生および拡大の恐れがある場合は消費者庁へ速やかに報告する」と定めるが、法的な規制はない。被害を把握した時点で報告を義務付け、早期対応に万全を期す必要がある。

 サプリの使用者に対する注意喚起を巡る批判も上がっている。

 先述の女性患者は摂取中止で体調が改善したが、腎臓の組織に重い障害が残り、将来的に人工透析が必要になるリスクが高まったという。

 主治医は「サプリをやめて回復したと思っている人にも重篤な障害が起きている恐れがある」と指摘する。治療の遅れを防ぐため、被害を出した製造時期のサプリを使用した人には強く受診を促すべきだ。

 機能性表示食品は政府の成長戦略の一環で2015年に導入され、これまでに約7千件の届け出があった。今回の問題を受けた国の緊急点検では18商品で計117件の健康被害が報告され、入院が必要な重篤な事例もあった。

 効果に関し、都合の良い試験結果だけを強調する不適切な広告も指摘されている。信頼回復にはルールの根本的な見直しが欠かせない。