認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人を支援する成年後見制度の利用を促進するため、小泉龍司法相は見直しを法制審議会に諮問した。2026年度までに民法などの改正を検討する。
認知症の人は、団塊の世代が全員75歳以上になる25年度には700万人に上ると推計されるが、22年末の成年後見制度の利用は約25万人にとどまる。高齢者の人口がピークを迎える40年に向け、安心で使いやすい仕組みに改めねばならない。
成年後見制度は介護保険とともに00年に始まった。後見人は本人や家族が利用を申し立て家庭裁判所が選ぶが、ひとたび決定すると原則として中止、交代ができないなど使いにくさが指摘されていた。
例えば、遺産分割のために後見人に弁護士を選び、手続きを終えた後も、判断能力が回復しない限り利用をやめられない。弁護士や司法書士など専門職が後見人の場合、利用者の存命中は報酬の支払いも続く。
後見人は財産管理や契約などで取り消しや代理など強い権限を持つ。不要な出費などを防ぐためだが、利用者本人の権利が必要以上に制限されているとの批判もある。国連の障害者権利委員会からも意思決定を代行する制度の廃止を勧告された。
後見人の交代は資産の使い込みなど明確な不正行為がなければ難しい点も課題だ。不透明な出金が判明しても「必要な支出だった」と反論され、解任できなかった事例も報告されている。弁護士などの専門職は収入の少ない人の後見人を引き受けたがらない現状もある。
利用者のニーズにきめ細かく対応できるよう、制度の抜本的な見直しが急がれる。本人や家族にとって使い勝手がよく、権利擁護を強める方策を幅広く議論してほしい。
改革案では、制度の利用期間を前もって決めたり、必要に応じて終えたりする仕組みを示す。取り消し権や代理権の範囲を限定したり、本人の状況に合わせ後見人を途中交代したりできる案も検討する。
例えば、遺産分割などの時は弁護士らを選任し、その後は本人や家庭の状況を知る社会福祉士らに交代するなどが考えられる。低所得者が利用しやすい支援策も考えたい。
法制審には、自筆が原則の遺言書をパソコン入力など電子化して保存可能にする見直しも諮問された。第三者の悪用を防ぐ対策は必要だが、意思を明確にしやすくすることは権利擁護にもつながる。
成年後見制度の見直しにとどまらず、福祉団体や市民らが協力して高齢者や障害者らの暮らしを地域で支える仕組みをつくり上げていく必要がある。