能登半島地震で大きな被害が出た石川県で、被災した建物を自治体が取り壊して撤去する「公費解体」が進んでいない。復興の前提となるだけに、事業が迅速に実施されるよう人的支援や制度の活用を進め、被災者の生活再建を後押ししたい。
能登の被災地では、多くの家屋や店舗などが倒壊した。地震発生から4カ月余りがたつ今も大半がそのままの状態だ。二次被害を防ぎ、元の土地での住宅再建を願う住民らから早期の解体を求める声が上がる。
公費解体は、廃棄物処理法に基づき、被災した家屋などを自治体が所有者に代わって解体、撤去する。罹災(りさい)証明書などを自治体に提出して申請し、書類審査や申請者が立ち会う現地確認を経て作業に着手する。
能登半島地震では半壊以上が対象で、国が費用の97・5%、残りを自治体が負担する。石川県は輪島、珠洲(すず)市など16市町で計2万2千棟に上ると想定し、2025年10月までに完了させる計画を立てたが、実現を危ぶむ声が出ている。16年の熊本地震では、3万5千棟を公費解体するのに2年余りを要した。
石川県によると、4月末時点の申請数は16市町で1万棟を超える。しかし二次被害を起こす危険のある緊急性の高い建物を除き、解体の実施件数はまだまだ少ない。被災地では水道の復旧、仮設住宅の建設など多くの課題を抱えており、十分に手が回らないのが実情という。
発注までの事務手続きに時間がかかっているのも要因だ。申請数の増加に伴い、必要な事務を担う行政のマンパワー不足が指摘される。国は他の自治体からの派遣職員を増やすよう促してほしい。
さらに審査に時間を要するのが、建物の所有者が法的に確認できないケースだ。私有財産の解体に不可欠な「所有者全員の同意」を得ようにも、相続人が多い場合や、相続による所有権移転の手続きが何代もなされていないという「未登記」の問題が立ちはだかる。相続権がある人を全て探し出して同意を取り付ける必要があり、自治体や県司法書士会などには相談が相次いでいる。
国は、解体後のトラブルに備え、申請者が責任を持って対応するとの「宣誓書」を事前に提出する方法も示す。だが無断で財産を処分されたと主張する相続権者から賠償請求される恐れはある。国は、自治体を免責する特例など宣誓書方式を使いやすくする方策を考えるべきだ。
解体前には被災者が家財を整理する必要がある。いらない家財は残してもいいが、自力での対処が難しい高齢者らは多い。ボランティアの力を積極的に借りるなど、きめ細かな支援が欠かせない。