円安に歯止めがかからない。年初の1ドル=144円から下落が続き、4月末には160円を突破して34年ぶりの安値となった。政府、日銀の市場介入とみられる円買いで152円台まで上昇したが、再び155円台に値下がりした。

 主因は、日米の金利差だ。米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ対策で高金利を維持しており、低利で調達した円をドルに替えて投資する動きが相場を押し下げている。投機資金も流れ込み、日本単独で打てる手は少ない。

 輸出企業には円安はプラスだが、海外生産の増加でそのメリットは以前よりも減っている。一方で輸入材料や光熱費、食料品の値上がりなど企業活動全般や国民生活に及ぼす影響は大きい。このまま円の下落が続けば景気の落ち込みにもつながる。政府は、中長期的に日本の経済力を高め、円の価値を向上させる政策を講じねばならない。

 民間シンクタンクの試算では、今回の円安による本年度の物価高の影響は1世帯当たり10万6千円に上る。5月限りで電気・ガス代への政府補助が打ち切られ、家計には円安と二重で負担が増す。政府は延長を検討するとともに補助対象を絞るなど、限られた財源を有効活用できるよう施策を見直してもらいたい。

 今春闘は大企業を中心に平均5%を超す賃上げとなったが、円安が進めば物価上昇で帳消しになりかねない。政府、日銀が掲げる「賃金と物価上昇の好循環」の実現は円相場の動向が鍵を握ると言える。重要なのは日銀の金融政策のかじ取りだ。

 3月のマイナス金利政策解除では、金融緩和路線の転換で円高への反転が期待されたが、肩すかしに終わった。植田和男総裁が国債の大量購入を続けると明言し、緩和維持と受け止められたためだ。4月末には円安が物価上昇に与える影響を否定する発言が円売りを加速させた。

 今月8日には、物価見通しが上振れすれば追加利上げを急ぐ方針を示して軌道修正を図った。むしろ、低金利をもたらす国債の買い入れを直ちに縮小し、緩和政策からの転換を鮮明にするべきではないか。

 そのためには、政府も汗をかかねばならない。巨額の国債発行に依存する予算編成を続けられたのは、最終的に日銀が国債を買ってきたからだ。本来は禁じ手である日銀頼みの財政から脱却し、1千兆円超もの債務を減らす努力が不可欠だ。

 労働力不足や高齢化など、日本経済には将来不安が山積している。現状に甘んじて改革を怠れば、日本は市場から見限られ、「日本売り」で円の暴落を招く。そのリスクも、政府、日銀は認識する必要がある。