4月の衆院東京15区補欠選挙で別陣営の街頭演説を妨害したとして、警視庁は公選法違反(自由妨害)の疑いで政治団体「つばさの党」代表と、同補選に立候補し落選した幹事長ら3容疑者を逮捕した。他陣営の選挙活動を妨害したとして候補者らが逮捕されるのは極めて異例だ。
3人は4月16日、東京都江東区のJR亀戸駅前で、無所属候補の演説中に拡声器を使うなどして聴衆が演説を聞くのを困難にさせ、選挙の自由を妨げた疑いが持たれている。
警視庁は同18日、公選法に基づき同団体に警告を出した。だがその後も街宣車を車で追跡したり、公衆電話ボックスに上り拡声器で大声を出したりするなどの妨害行為を繰り返した。一連の行為は投稿サイトで動画配信した。
各陣営は街頭演説の事前告知をやめるなどの対応を強いられた。複数陣営が被害を訴え、警視庁が同団体事務所などを家宅捜索していた。
選挙中の街頭演説は、候補者が主張を伝え、有権者が直接聞くことで投票の判断材料を得る貴重な場である。国民の知る権利を阻害し、政治参加の機会を奪うような行為は決して許されない。
公選法は街頭演説を妨げる行為を「自由妨害罪」と規定する。違反した場合は、4年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金を科される。最高裁の判例では「聴衆が聞き取ることを不可能または困難ならしめるような行為」を演説妨害と定義している。
同党側は「妨害の意図はない」と主張する。憲法が保障する言論の自由や表現の自由は尊重されねばならないが、他者の権利を侵害していいわけではない。強い非難に値する。
今回の事件を受け、与野党から公選法に具体的な妨害行為を明示し、厳罰化などの規制強化を求める声が上がっている。ただ、安易な法改正は政権批判などを排除したり、言論を萎縮させたりする懸念がある。まずは現行法の範囲で対処すべきだ。公権力で表現行為を規制することは抑制的であらねばならない。
2019年参院選では街頭演説中の安倍晋三首相(当時)にやじを飛ばした聴衆を警察が排除した。その是非が争われた訴訟で、裁判所は一部の警官の行為が表現の自由を侵害したと判断している。有権者のやじは個々の意見表明でもあり、他陣営の妨害目的が疑われる今回と同一視はできない。
過度な規制で「選挙の自由」が狭められ、市民の表現活動が脅かされるような事態になれば本末転倒だ。民主主義の根幹である公正で自由な選挙を守るにはどうすればいいか、慎重に議論する必要がある。