重要なインフラや先端技術などで国の安全保障に関わる機密情報を保全する「重要経済安保情報保護・活用法」が成立した。国が身辺調査して信頼性を認めた人だけが機密情報を扱える「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入が柱になる。
同様の制度を運用する欧米と情報を共有できるようになり、宇宙やサイバーといった最先端分野の国際事業への参加などで企業の競争力強化につなげる狙いが政府にはある。
懸念されるのはプライバシーの侵害や、恣意的な運用で知る権利が脅かされかねない点だ。国は機密情報の範囲や調査される民間人の保護など運用基準を明確にしなければならない。
新法では、秘匿すべき情報を漏らせば5年以下の拘禁刑や罰金が科せられる。機密情報の保全は、2014年施行の特定秘密保護法で外交、防衛分野を対象としており、これを経済安保分野に拡大した。
米中対立が続く中、軍事だけでなく産業分野でも先端技術情報の漏えいは致命的な打撃になる恐れがある。日本以外の先進7カ国(G7)は既に機密保全策を導入している。
問題は、機密情報の線引きや基準が明示されていない点だ。身辺調査対象も明確でない。初年度は「多く見積もって数千人程度」と高市早苗経済安保担当相は述べたが、機密情報が拡大すれば増えるのではないか。
調査は企業や大学の研究者にも及ぶ。本人同意が前提とはいえ犯罪歴や薬物乱用、精神疾患の有無、飲酒の節度や経済状況、家族の国籍まで調べられる。調査を拒んだり「不適格」と判定されたりすれば配置転換など不利益を被る不安も消えない。
法案審議の過程では、内容の不備を指摘する野党に対して政府側が「法案を認めてもらった後に詳細を検討する」と答弁する場面もあった。国会軽視もはなはだしい。
法案は野党の主張で、機密情報の指定や解除、適性評価の実施状況を国会で監視できるよう修正された。成立を受け政府は機密の範囲など具体的な運用基準を作るが、国民の権利が侵害されないよう厳しく目を光らせるのが立法府の責務だ。