困難な状況にある女性たちの支援に長年取り組んできた認定NPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」の代表理事、正井礼子さん(74)が今年の神戸新聞平和賞に決まった。
政治、経済、教育、さまざまな分野で男女格差は残り、性暴力、ドメスティックバイオレンス(DV)など女性の尊厳を傷つける問題は後を絶たない。1992年設立の同ネットは、一人一人の苦悩に手を差し伸べ、問題提起してきた。女性支援活動の先駆けとして知られる。
その最前線でけん引してきたのが正井さんだ。社会の無理解からくる逆風にもさらされながら、「女性が自分らしく、のびやかに生きられる社会を」との信念を貫いた勇気と行動力に敬意を表したい。志を同じくする支援者や、懸命に生きる女性たちを代表しての受賞と言える。
阪神・淡路大震災発生直後に電話相談などを展開し、封印されていた被災女性の性被害や困り事をすくい上げた。その後の災害で避難所運営の改善などに生かされている。母子の自立を見守る施設「WACCA(わっか)」の運営や、デートDV防止授業などの啓発活動も続ける。
6月には、シングルマザーや生きづらさを抱えた若い女性らに提供する住まい「六甲ウィメンズハウス」がオープンする。新型コロナウイルス禍では女性の貧困や孤立の問題が顕在化し、課題も多い。正井さんらの活動は重要性を増している。
文化賞は、日本画家西田眞人(まさと)さん(71)。2023年度の日展でスコットランドの橋を描いた「懐(かい)」が内閣総理大臣賞に輝いた。震災後の地元神戸の光と影を見つめ、闘病経験を機に全国の一の宮神社を描き続ける。生活実感に裏打ちされた詩情豊かな作品は、見るものを静かに受け止め癒やしてくれる。具象と抽象の融合など日本画の新たな可能性をひらく探究心は衰えることがない。
社会賞は、認定NPO法人「フードバンク関西」。食品ロスを減らし、支援が必要な人に届ける活動を2003年から続ける。この20年で企業・団体などの食品提供元は拡大し、格差社会を映すように支援先も増えた。「食のセーフティーネット」の存在意義は高まるばかりだ。
スポーツ賞は、1月に女子マラソンの日本記録を19年ぶりに更新し、2大会連続で五輪日本代表を勝ち取った前田穂南選手(27)と、創設29年目の昨年、サッカーJリーグ1部で悲願の初優勝を果たしたヴィッセル神戸が選ばれた。ともに今年も活躍が期待できる。
混迷の時代に希望を与えてくれる方々の受賞を喜び、これからも続く挑戦にエールを送りたい。