台湾の新政権がきのう、発足した。1月の総統選挙で初当選した民主進歩党(民進党)の頼清徳主席は就任式に臨み、「傲慢(ごうまん)でもなく卑屈でもない態度で現状を維持する」と演説した。
中国との関係において、独立も統一も求めず、現状維持することで台湾海峡の安定を保つ、との宣言である。2期8年務めた蔡英文・前総統の路線を踏襲する。
対する中国は「一つの中国」を主張し、台湾独立派と見なす民進党からの対話の申し入れを拒否してきた。そればかりか、連日のように軍用機を台湾周辺に進入させるなど軍事的な威嚇を続けている。
習近平指導部は、台湾の民意を尊重し、向き合い方を冷静に考えるべきだ。強硬姿勢は台湾のみならず、国際社会の警戒感を強めるだけである。大国として、新政権との対話に応じる度量を見せてほしい。
頼総統は、台湾と中国のいわゆる「両岸関係」の緊張を回避し、安定化への戦略を描く必要がある。安全保障の観点からも、産業分野の競争力強化などを通して国際的な存在感を高めることは今後一層重要になるはずだ。
米中の覇権争いが激しくなる中、前総統の蔡氏は米国などの民主主義国家と連携する立場を明確にした。頼氏はその方針を引き継ぐ。
外交面で注目されるのは、副総統に就任した蕭(しょう)美琴氏である。神戸市生まれの蕭氏は、女性初の駐米代表(大使に相当)を務め、米政界に太いパイプを持つ。米国との関係強化に手腕を期待する台湾の有権者は多いだろう。
前政権と異なり、立法院(国会)は民進党が過半数割れした。厳しい政権運営を迫られそうだ。
第1党となった最大野党の国民党は、対中融和路線を取る。中国は経済交流の促進策を示して国民党の取り込みを図るなど、揺さぶりをかけている。若者の支持で第三勢力に急成長した台湾民衆党は、国民党と歩調を合わせる場面が目立つ。
民進党が掲げる脱原発をはじめ、都市部の住宅高騰、経済格差への対応などが内政の焦点となろう。
頼氏は半導体を基軸産業と位置付け、海外進出を後押しする方針だ。熊本県では、半導体受託生産の台湾積体電路製造(TSMC)が第2工場を建設する。経済分野だけでなく文化や草の根などの多分野で日台関係を深化させたい。
2019年に台湾はアジアで初めて同性婚を認めた。現在、立法委員(国会議員)の4割超を女性が占める。多様性を尊重し、促進するために台湾は法や制度を整備してきた。日本が学ぶところは多い。