疲弊する教育現場を変えることができるのか。実効性に疑問を抱かざるを得ない改革案だ。

 中央教育審議会の特別部会は、教員の処遇改善や残業削減を盛り込んだ提言をまとめ、盛山正仁文部科学相に提出した。兵庫県をはじめ全国で教員のなり手不足が深刻化し、人材確保策が話し合われてきた。

 改革案の柱は給与の引き上げである。公立学校の教員には、残業代の代わりに月給4%分の教職調整額が一律に支給されている。これを10%以上にする。教員給与特別措置法(給特法)の改正が必要で、実現すれば約50年ぶりの増額となる。

 遅きに失した感はあるが、処遇の見直しに踏み込んだのは一歩前進といえる。しかし、「ブラック職場」とのイメージを払拭するには不十分だ。残業代がなく、「定額働かせ放題」と批判される現行の制度を温存したままでは、長時間労働の是正は難しい。

 2022年度の調査で、文科省が定める残業上限の月45時間を超える教員は小学校で64%、中学校で77%に上った。一方、現行の教職調整額4%は、残業時間が月平均8時間程度だった半世紀前が基準になっている。調整額を2・5倍の10%に増やしても、勤務実態との隔たりは依然大きい。教員の間に失望が広がっているのは無理もない。

 特別部会は、全教員の残業時間を月45時間以内に収める目標を提言に明記し、将来的には月20時間程度を目指すとした。そのために校長らのマネジメント能力向上や、苦情対応への行政支援、若手教員のサポート充実などを提案している。

 ただ、それらの具体策は既に多くの学校や教育委員会が取り組んでいる。子どもを取り巻く課題は多様化しており、現場の頑張りに依存した従来の働き方改革は限界を迎えているといえよう。

 労働環境を抜本的に改善し、教員が本来の業務に集中できるようにするには、増える一方の学習内容をスリム化し、教員の定数を増やすといった思い切った施策が求められる。財源が大きな壁になろうが、正面から議論をするべきだ。

 兵庫県教職員組合の23年度調査によると、県内の公立小中学校と特別支援学校では3学期時点で計266人の教員が不足し、計画通りに配置されなかった。過酷な勤務状況を敬遠して教員志望者が減り、休職者や離職者で生じた欠員を埋められない状況が常態化している。子どもたちへの影響が心配される。

 公教育の質を高める努力は国の責務であり、未来への投資でもある。そうした認識を社会で共有し、現状に目を向けることが重要だ。