政府がエネルギー基本計画の見直しに着手した。二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を2050年に実質ゼロにする政府目標を前提に、40年度を見据えた電源構成目標を検討する。電力の安定供給と脱炭素の加速をどう両立させるのか。議論の経過を国民に分かりやすく説明し、幅広い意見を取り入れる開かれた議論が求められる。
同基本計画は中長期的なエネルギー政策の方向性を決めるもので、03年に初めて策定された。3年ごとに検討し、必要に応じて改定する。今回は、経済産業省の総合資源エネルギー調査会の分科会で検討を始め、24年度中に取りまとめる。
CO2排出量の多い石炭火力発電の比率引き下げのほか、太陽光や風力などの再生可能エネルギー、原発の扱いなどが焦点になる。
先進7カ国(G7)は4月、CO2の排出削減対策が講じられていない石炭火力を35年までに段階的に廃止することで合意した。温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」では、産業革命以来の気温上昇を1・5度に抑えるとするが、23年の平均気温は既に約1・45度高かった。脱炭素は人類にとって喫緊の課題である。
ところが日本は石炭火力の存続にこだわり、アンモニアを石炭に混ぜる技術が削減対策に当たると主張している。この削減効果は限定的とされ、国際的な批判が強い。石炭火力は全廃も考えねばならない。
現行の基本計画が定める30年度の電源構成目標では火力41%、再エネ36~38%、原発20~22%としている。だが22年度の実績は火力73%、再エネ22%、原発6%で、石炭を含む火力の比率がまだ大きい。
30年度の目標達成も難しい中、新しい基本計画で火力の比率を下げるには、再エネの拡大に大胆に踏み込むことが欠かせない。海に風車を浮かべる浮体式洋上風力発電や、軽量で薄く、窓ガラスなどに設置できる「ペロブスカイト太陽電池」などに期待がかかる。政府は新技術の開発を後押ししてほしい。
懸念されるのは、11年の東京電力福島第1原発事故後、減少傾向だった電力需要が、24年度に増加に転じると予測されている点だ。人工知能(AI)の開発拠点や半導体工場が大量の電力を使用するという。
岸田政権は22年に原発の「最大限活用」を打ち出した。政府は原発の新増設や建て替えなどを進める構えだ。しかし原発に対する国民の不信や不安は払拭されていない。
現行の基本計画には「可能な限り原発依存度を低減する」と明記している。今回の見直しでもこの方針を堅持し、原発に頼らない脱炭素への議論を深める必要がある。