上場企業の2024年3月期決算が出そろった。大手証券会社の調査では、純利益の合計額は3年連続で過去最高を更新した。

 兵庫県内で前期と比較できる上場69社の決算を神戸新聞社が集計したところ、6割超の43社が純利益を増やすか、黒字転換を果たした。

 製品開発などに加え、歴史的な円安が輸出業種を中心に企業業績を押し上げている。対照的なのは景気の動きだ。今年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値と設備投資は2四半期ぶりに落ち込み、個人消費は23年4~6月期から4期連続で下落した。物価の影響を差し引いた23年度の実質賃金は2年連続で減った。

 好業績が内需拡大に結び付かねば景気は勢いづかない。今後の企業業績にも影を落とす。配当増や自社株買いなどで株主還元に努める企業は多いが、持続的な成長を実現させるためには、賃上げや設備投資にも力を注ぐべきだ。

 今回の決算は、円安効果が多くの業種に及んだことを示している。

 食料品などでは、輸入材料の値上がりを販売価格に転嫁した。外国人観光客の消費を刺激し、運輸やサービスでは客足が伸びた。

 一方で、政府が旗を振る賃上げは浸透したと言い難い。連合の傘下労働組合の今春闘の平均賃上げ率は33年ぶりに5%台達成が見込まれるのに対し、中小零細企業を対象にした大手生命保険会社の調査では、3割弱が賃上げを予定していなかった。

 1~3月期のGDP減少について、政府は元日の能登半島地震や、一部自動車メーカーの不正による生産停止も響いたと説明する。しかし個人消費が1年間も落ち込んでいる状況は楽観視できない。賃上げを広めるため、中小企業の値上げ要請を大手が拒む「下請けいじめ」にいっそう目を光らせてもらいたい。

 設備投資の減少も、一時的なものとの見方がある。気がかりなのは上場企業の25年3月期決算の純利益予想合計額が、5年ぶりに前期比マイナスとなる点だ。日銀の金融政策変更で円安から円高に転じる可能性や国際情勢の混迷など、先行き不安がうかがえる。設備投資への意欲も鈍り始めているのではないか。

 脱炭素技術の進展や人工知能(AI)の深化など、世界の潮流に日本企業が乗り遅れるような展開になれば、GDPの減少は一時的なものでは済まなくなる。増えた収益を原資に、攻めの姿勢へ大胆に踏み出すことを経営者には求めたい。

 企業が高収益を賃上げと設備投資に充て、内需を拡大させてさらなる高収益を生み出す。そうした循環を築き上げることが、今の日本経済には最も重要だ。