岸田文雄首相と中国の李強首相、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領はソウルで3カ国首脳会談に臨み、経済協力や人的交流、会談の定期開催を目指す共同宣言を採択した。日中韓自由貿易協定(FTA)の締結交渉加速など具体的な成果もあったが、安全保障では日韓と中国間の溝が露呈した。

 とはいえ、各国間の関係悪化や新型コロナウイルス禍で4年半開かれなかった日中韓首脳会談が再開される意義は大きい。東アジアを取り巻く課題が山積する中、「未来志向」の取り組みを強化してもらいたい。

 共同宣言は朝鮮半島を巡り「政治的解決のために引き続き前向きに努力する」との文言を盛り込んだ。しかし、北朝鮮の非核化や拉致問題については「それぞれ立場を強調した」とのみ記し、2019年首脳会談での「完全な非核化」「拉致問題の早期解決」との合意を後退させた。

 ロシア、北朝鮮との関係を重視する中国の姿勢を反映したとみられるが、朝鮮半島の平和と安定は中国の安全保障にも資するはずだ。連携を深め、北朝鮮への圧力を強めたい。

 北朝鮮は会談に合わせ「人工衛星」と称するミサイルを発射し失敗に終わった。3カ国会談の趣旨を踏みにじる暴挙は許しがたいが、中国と日韓の接近への危機感からとも言える。拉致問題の進展には中国を巻き込む戦略が不可欠だ。

 FTAの交渉再開は、不動産不況や過剰生産への批判を背景に、新たな経済成長戦略を模索する中国側が強く求めたとされる。一方、日中の2カ国協議で中国側は、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡る日本産水産物の輸入停止を撤廃しなかった。科学的根拠に乏しい禁輸措置は自由貿易の原則にもとることを中国は自覚しなければならない。

 前回会談からの間、ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザでの人道危機など国際世論の分断や対立を招く事態が相次いだ。これらに対する日韓と中国の立場は大きく隔たるが、だからこそ同じテーブルに着く意義がある。

 国際社会は従来のような欧米主導の課題解決が難しくなっている。中国は日韓と米国の連携強化にくさびを打ち込む狙いで「多極化」を主張したが、さまざまなチャンネルを築く姿勢は日本外交にも欠かせない。

 覇権的な外交姿勢を採る中国は会談直前、台湾を包囲する海空域での軍事演習に踏み切った。東アジアの安定維持に逆行し容認できない。

 次回の会談は日本が議長国を務める。法の支配による国際秩序の維持・強化へ、外交力が試される。中国に対し、政治権力を一手に握る習近平国家主席の出席を求めていくことも重要だ。