子どもの将来にかかわる制度の導入が決まった。多くの懸念材料を残したままで、拙速と言わざるを得ない。議論を止めず、課題の解決に取り組まねばならない。
離婚後も父母の双方が親権を持つ共同親権を可能にする改正民法が成立した。2026年の施行が見込まれる。付則には、施行5年後をめどに制度や支援策を見直すことが盛り込まれた。
日本は戦後長らく、別れた父母のどちらかを親権者とする単独親権に限ってきた。法改正により、両親が話し合いで共同親権も選べるようになる。折り合えなければ、家庭裁判所が親子関係などを踏まえて決める。既に離婚した父母も共同親権への変更申し立てができる。
離婚した家庭の在り方を左右する制度の大転換であり、国民の間で賛否が分かれている。中でも、ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の被害者らにとって、共同親権になれば加害者との接点が生まれ、被害が続くのではないかという不安は大きい。ところが、国会審議はわずか2カ月で終わり、当事者たちの懸念は払拭されなかった。
夫婦関係は解消しても、親子関係は継続するべきだ-。改正法はそうした考えに基づく。離婚後も父と母が子育てに関わることは好ましい。ただしそれは、両人が対等の立場で子どものために協力し合える関係を築いているのが大前提だろう。
共同親権下では、進学先の選択や転居、パスポート取得などは父母双方の同意が必要になりそうだ。子どもの安全を守り、利益を最優先するには、共同親権に適さないケースを排除する仕組みが不可欠である。
改正法で懸念されるのは、父母双方の合意がなくても家庭裁判所の判断で共同親権とできる点だ。
DVや虐待の恐れがある場合は、父母どちらかの単独親権にすると定めるが、家庭という密室で暴力の有無を立証するのは難しい。精神的暴力など見えにくいDVもある。家庭裁判所が適切に見極められるかが鍵となるが、かねてマンパワー不足が指摘されており、役割を果たせるかは未知数だ。
政府は、家庭裁判所の体制強化策を具体的に示す必要がある。父母の意見が対立する場合、裁判所は共同親権を選択すべきではない。併せて、DVや虐待の被害者保護、加害者の更生プログラムなどを進めねばならない。
親権を選ぶ際に子どもの意見を聞く規定は盛り込まれなかった。「子に親を選ばせるのは酷」との考えからだが、当事者である子どもの意思は最大限尊重されねばならない。早期の見直しを求めたい。