川勝平太前知事の失言による辞職に伴う静岡県知事選は、元浜松市長の鈴木康友氏が初当選した。争点の一つとなったのが、県北部の南アルプスをトンネルで貫くリニア中央新幹線工事だった。
川勝氏は、南アルプスを水源とする大井川の水量減や生態系への影響を懸念して着工を認めず、事業主体のJR東海は品川-名古屋間の2027年開業を断念した。環境保全を重要視する姿勢は、県民から一定の評価を得ていた。
当選した鈴木氏は当初、リニア推進を肯定していたが、選挙期間中に岐阜県瑞浪市でリニア工事が原因とされる水枯れが表面化すると、川勝氏のリニアへの対応を評価し多くの票を集めた。だが知事就任後の会見では、環境への影響の懸念払拭が前提としつつ、「最後は政治的な決断が必要」と述べ、工事認可の可否について明言しなかった。
リニア新幹線は全区間の86%をトンネルが占める。掘削が原因とみられる水位低下は長野県でも確認されている。このまま工事が進めば、各地で同様の被害が起こりかねない。
JR東海は原因を追究して早急に抜本的な対策を講じるべきだ。鈴木氏は生態系や生活環境への影響を重視して工事の可否を慎重に判断してほしい。
瑞浪市では昨年12月と今年2月、同じトンネル内の2カ所で湧水が見つかった。JR東海は2月下旬に観測用井戸で水位低下を確認し、市や住民に報告したが、生活用の井戸が使えなくなり、農業用水のため池が干上がるなど、住民生活に大きな影響を及ぼしている。
理解できないのはJR東海から岐阜県への報告や公表が5月にずれ込んだ上、工事を続けようとしていた点だ。批判を浴び直後に中止はしたが、地域の不安を思えば、水位低下を確認した時点で直ちに公表し、工事も中止すべきだった。
川勝氏が指摘していた大井川の水量減について、昨年JR東海は上流のダムからの取水を制限して水量を維持する案を示し、県や流域自治体は了承した。
だがこれで着工の条件が満たされたとは言えない。県は19年、トンネル工事を巡り、水資源など環境保全に関する40以上の項目についてJR東海と協議を始めたが、大半は未解決との見解を示している。政府はリニアを国家プロジェクトと位置づけており、トップ交代で県が着工容認に動くと期待をかける。
地域の不安に事業主体が誠実に向き合い、理解を得られる解決策を示さねばならないのは、国策であっても当然だ。その点を、政府とJR東海は十分に認識する必要がある。