客から度を越したクレームや理不尽な要求を受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題となる中、国が労働者保護の強化に乗り出す。
企業に対して、従業員をカスハラから守る対策を義務付ける方向だ。具体的には対応マニュアルや相談体制の整備を検討している。2025年にも、労働施策総合推進法の改正案を国会に提出する。
人格を否定する暴言を吐く、長時間の対応を強要する、物を投げつける-。こうしたカスハラで心身に不調を来す労働者は少なくない。近年では、応対した従業員の実名を交流サイト(SNS)に書き込む事例も見られる。
多くの日本企業は「顧客第1主義」を掲げ、消費者からの要求が不当なものであってもできるだけ応じたり、耐えたりすることを善しとする風潮がある。
しかし、社会通念上受け入れられないハラスメント行為は人権侵害であり、看過できない。放置すれば従業員の離職やサービスの質の低下を招きかねず、企業と消費者の双方にとってマイナスだ。
法改正を待たず、各事業者は対策を急ぐ必要がある。接客の現場任せでは実効性は上がらない。経営トップが基本方針や姿勢を社内外に示すことが鍵となる。
どこからがカスハラに当たるのか線引きが難しいとの悩みを聞く。厚生労働省が22年に策定した対策マニュアルや、先行する企業の取り組みが参考になろう。
JR西日本は5月、カスハラ対策の基本方針を公表した。差別的な発言やプライバシー侵害といったカスハラの具体例を挙げ、該当する場合はサービスや商品の提供を中止することがあると明記した。航空業界でも対策が進みつつある。
重要なのは、顧客からの正当な苦情とハラスメントをきちんと見極めることである。
ところが、消費者が商品やサービスについて問い合わせようにも、ネットのみの対応や電話がなかなかつながらないなど困るケースは多い。人手不足の問題もあるだろうが、企業はクレームに応じる態勢が顧客に不便を強いていないかを点検し、改善に努めてほしい。
東京都がカスハラ防止条例の制定を目指すなど、自治体も対策に動いている。今後、国レベルではハラスメント行為そのものを禁じる法整備が求められる。
「客だから何をしても許される」という特権意識が変わらなければ、カスハラ防止は難しい。消費者も従業員も尊重されるべき存在だ。その共通認識を持つことから始めたい。