乗用車の品質に関わる不正行為が、大手メーカーにまん延していた。顧客や社会の信頼を裏切るだけでなく、日本車が世界市場で強みとしてきた安心安全に大きな傷を付けた。経営陣の責任は極めて重い。

 トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ、ホンダ、スズキの5社が、車の大量生産に必要な型式指定の認証申請で不正をしていたことが発覚した。不正は計500万台に及び、計38車種のうち生産中の3社の6車種は出荷停止に追い込まれた。国土交通省は各社の立ち入り検査に乗り出した。

 5社はいずれも安全性に問題はないと説明するが、ユーザーの納得は得られまい。原因究明と再発防止を徹底してもらいたい。

 2016年以降、自動車メーカーで燃費データの改ざんなどの不正が相次ぐ。そのたびに国交省は各社に調査を命じてきた。今回も、過去2年余りの間にトヨタグループのダイハツ工業や豊田自動織機で不正が確認されたことを受け、車や関連装置のメーカー85社に調査と報告を指示していた。

 日本の基幹産業でありながら、各社の自浄能力の低さが浮き彫りになったと言える。

 業界トップであるトヨタの不正は衝撃的だ。豊田章男会長はこれまで、傘下企業の不祥事のたびに組織風土の再点検を掲げながらも「本体は大丈夫」との認識だった。しかし、その前提は崩れた。足元の企業統治の在り方を総点検し、改革する必要がある。

 世界で電気自動車(EV)が普及する中、トヨタはハイブリッド車(HV)もガソリン車も燃料電池車(FCV)も手がける「全方位戦略」を展開する。認証の現場に負担がかかり、効率優先で不正に走った可能性があるのではないか。

 型式指定を巡っては、そもそも認証試験の手順書が曖昧でメーカーや担当者による独自解釈を生みやすいと指摘されていた。車の電動化に対応していないとの意見もある。

 だからといって、量産の根拠となるルールの軽視は許されない。不正行為の中には、規定より厳しい条件の自社試験データを転用したケースがある一方、虚偽データの提出や車両の不適切な加工といった悪質な例も見られた。品質に対するメーカーのおごりがうかがえる。

 認証制度が現状に合わなければ、不正の再発防止策とは分けて見直しを議論するべきだ。

 国交省は、相次ぐ不正をまたも見抜けなかった。猛省せねばならない。車の安全性を担保するために、審査や監査の実効性を高めることが不可欠だ。信頼性があってこその国際競争力である。