罪を犯した人や非行少年の立ち直りを支援する保護司を殺害した疑いで、滋賀県警は保護観察中の男を逮捕した。善意のボランティアに支えられる更生保護制度を揺るがしかねない事態である。真相の究明と再発防止は急務だ。
保護司の男性(60)は5月26日、大津市の自宅で遺体で見つかった。容疑者の無職の男(35)は男性の上半身を複数回突き刺し死亡させた疑いが持たれている。容疑者はコンビニ強盗事件を起こして2019年に懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を受けていた。
犯行日とみられる5月24日は面会が予定され、容疑者が男性宅の玄関から出入りする様子が防犯カメラに写っていた。更生保護団体関係者によると、男性は連携するNPOを通じ容疑者に仕事を紹介したが長続きせず、周囲に相談していたという。
捜査関係者によると、容疑者は「私はやっていませんし、何も答えたくありません」と否認している。自身のものとみられる交流サイト(SNS)には保護観察や司法への不満を投稿しており、滋賀県警が関連を調べている。事前にトラブルなどの情報はなかったという。
保護司が対象者に殺害される事件は1964年に北海道で起きて以来確認されておらず、活動中の事件であれば影響は計り知れない。
法務省は事件を受け、全国の保護司が担当する全ての案件で対象者とのトラブルがなかったかどうか調査を始めた。保護司の中には、自宅に対象者を招き1人で面会することに不安を抱く人もいる。相談窓口を設置し、面会時は自宅以外の施設の利用を促進するなど安心できる環境を整備しなければならない。
ただでさえ保護司はなり手不足が深刻化している。昨年1月時点では平均年齢65・6歳と高齢化が進む。定員は5万2500人と保護司法で定められているが、特例で再任した70代後半の1300人余りを除けば4万5千人台まで減少した。
法務省は持続可能な制度改正に向け有識者検討会をつくり、新任は66歳以下とする年齢制限の緩和や公募制の導入、無報酬の規定見直しを協議している。今後は安全対策強化の議論も避けて通れない。
近年、刑法犯の認知件数は減少する一方、再犯者の割合は年々上昇し兵庫県では5割を超えた。再犯防止の取り組みは重要性を増している。
県は再犯防止推進計画を策定したが、対策の柱と位置付ける就労や住居確保を円滑に進めるには、地域事情に精通した保護司の役割が欠かせない。関係機関・団体との連携強化など、自治体としてもきめ細かい活動支援策を進めてもらいたい。