入院患者への虐待を繰り返したなどとして看護師ら6人が有罪判決を受けた神戸市西区の精神科病院「神出病院」の幹部が先月末、事件発覚から4年以上を経て初めて会見を開いた。

 2009年以降、少なくとも27人の職員が84件の虐待に関わり、貧弱な設備投資も相まって患者は劣悪な環境に置かれ続けた。事件の衝撃は大きく、虐待の通報義務を課す精神保健福祉法改正につながった。しかし、精神科病院での患者虐待はその後も全国で相次ぎ発覚している。

 神出病院の会見は遅きに失したきらいはあるが、事件からくむべき教訓はなお多い。診療の正常化を着実に進め、精神科医療全体の信頼回復につなげなければならない。

 会見で土居正典院長は「当時の院長による専制体制が10年以上続く中で、職員自身が『患者のために』と考えるのをやめていた」と述べた。治療方針を決めるカンファレンスは開かれず、行きすぎた身体拘束が横行していたという。

 再生の行程表を作成し風通しの良い職場づくりを進めた結果、「雰囲気が一変した」と土居院長は強調したが、病院の目指す「モデルケース」になるのは容易でない。改革の実績を積み重ねてもらいたい。

 理解に苦しむのは、旧経営陣に対する責任追及が及び腰な点だ。

 事件の原因を調査した第三者委員会は、前理事長が報酬などとして8年間で約18億円を得ていたとし、一部は「不当所得」と断じた。旧経営陣の意を受け、前院長らが「収益をあげることを優先した経営を10年近く続けてきたことが、現場の看護内容をゆがめた」と指摘した。

 一方、会見で旧経営陣の責任を問われた土居院長は「道義的責任がある」との言及にとどめた。「しかるべき時に必ず資金援助を行う」とする前理事長のコメントが読み上げられたが、詳細は不明だ。

 病院側は自主返納を待つ方針だが、事件の要因となった収益至上主義の責任を指弾し、過剰な報酬の返還を求めるべきだ。法的措置もちゅうちょしてはならない。巨額の報酬は患者と職員の待遇向上や病院の環境改善に充てる資金だったはずだ。

 精神科病院を巡っては、自傷や他傷の恐れがなくても医師や家族の判断で強制入院させる「医療保護入院」を安易に適用しているとの指摘がある。神出病院では必要のない医療保護入院が長期化する例が相次いだ。退院指導は行われず、死亡退院が他院に比べ突出して多かった。

 人権侵害の批判が根強い医療保護入院に頼る経営は許されない。地域と連携して支援体制を築き、患者本位の医療を実現する必要がある。