兵庫県の元西播磨県民局長が作成した斎藤元彦知事らを批判する文書を巡る問題で、県議会はきのう、地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。県議会では1973年以来となる。迅速に事実関係を検証し、県政の混乱を収拾せねばならない。

 百条委は、関係者の出頭や証言、記録提出を求めることができるなどの強い権限を持ち、虚偽証言などには禁錮や罰金などが科される。議会内では「斎藤県政の否定」との見立てが大勢という。

 元県民局長を巡っては、斎藤知事や県幹部らの言動を「違法行為」とする匿名文書を報道機関や県議らに郵送していたことが3月下旬に発覚した。知事による職員へのパワハラや企業からの贈答品受け取りなど、7項目の疑惑が記載されていた。

 これに対し、知事は記者会見で文書の内容を「うそ八百」「事実無根」と激しく批判し、元県民局長を解任して退職を取り消した。その後、県人事課による内部調査で文書内容は「核心的な部分が事実ではない」として誹謗(ひぼう)中傷に当たると認定、停職3カ月の懲戒処分とした。

 だが県幹部が企業から贈答品を受け取ったことなど文書の一部が事実と判明した。内部調査に先立つ知事の発言は職員を萎縮させ調査の客観性や信頼性を損なう結果になった。知事はまず批判や不満に率直に耳を傾けるべきでなかったか。内向きの姿勢を反省しなければならない。

 その後、内部調査に協力した弁護士が文書で知事の政治資金関連の疑惑を指摘された団体の顧問弁護士だったこともわかった。知事は議会が求めた第三者機関による再調査を受け入れた。

 ところが、最大会派の自民党などは「実効性に疑問が残る」として議会独自の調査が必要と主張した。前回の知事選で斎藤氏を推した第2会派・維新の会は「第三者機関の調査で解明できなければ百条委設置を検討すべきだ」とし、第3会派の公明党とともに反対した。

 自民は当初、知事選を巡る分裂が尾を引き賛否が割れたが造反を防ぐため全員が賛成するよう党議拘束をかけた。結局、記名投票により動議への賛成票が過半数を占めた。

 懸念するのは来夏に知事選を控え、百条委が政争の具と化すことだ。議会は公正に真相を解明する重い責任を負うことを忘れてはならない。

 片山安孝副知事が自民に対し、自身の辞職と引き換えに百条委設置動議を出さないよう依頼したことも明らかになった。組織防衛に走る姿は県民不在というほかない。知事は、大きく揺らいだ県政への信頼を取り戻すため説明責任を果たすべきだ。